第20話
Ⅰ【今はさよなら】p20
それは恋愛。
ケンジは問題の無い父親であり、夫だった。
星子が乳飲み子の時から、育児にも積極的に関わってくれたし、私の気性や性格を通して母親である私にも理解を示してくれた。
しかし何か不信感を募らせるものをケンジは持っていた。
元来気持ちを表現するのが下手なタイプではあったが、それ以前にもっと根っこの、ケンジ自身意識できない潜在的なところで私を裏切っているという不安を常に拭い去ることが出来ずに居た私は、星子と入れ代わりのようにケンジへの不信から目を背けなくなってきたことが口実となって、またもや安全パイを欲するようになった。 生きるために…
恋愛初期の焼け付くような思いこそが唯一の信頼できる感情だと錯覚した私は、職場の同僚から担当している患者、職場に出入りする業者、果てはプライベートで関わる諸々の男性までを相手に恋愛ゴッコにハマっていった。
熱しては冷め、冷めては次に乗り換え、常に情熱をキープできるよう相手を翻弄し代えていった。
私自身は決して遊ぶつもりが無く、その都度本気で真剣だったため、相手を苦しませ悲しませはしたが、恨まれることは無かった。
そこが私の得なところであり、罪作りな部分でもあった。
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心地よい風が、私のうなじから両頬にかけてを優しく撫でている感覚があった。
私は漆黒の宇宙空間を仰向けに寝た状態で漂っている。
私に肉体などある筈も無いのに……
星子のお母さんを通して肉体の感覚も再現したために、幻の感覚が残りキープされたのだろう。
よく体の一部を切断した後、既に無くなっている部分に痛みや痒みなどを感じることがあるらしいが、それと同じような現象なのかもしれない。
私はそのまま静かに、たった今まで私だった星子のお母さんに思いを馳せた。
ケンジ(研治)さんは彼女をどのくらい理解しているのだろう……
そして星子はお母さんの歴史を知っているのか…………
星子とお母さんとどちらの為にも、星子がそれを知る必要があると思った。
星子がお母さんの歴史に興味を持ち、それを知る為の努力をするよう、そして星子がお母さんにとって信じるに値する存在であることをお母さんに分からせるよう、私は最大限のエネルギーを使って導いた。
それから私は、自らケンジ(研治)さんの精神世界へと入っていった。
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