第19話

Ⅰ【今はさよなら】p19


私は星子を育てることに夢中だった。


自分を絶対的に必要としてくれる存在は否が応でも自分肯定させてくれる。


自分肯定は生きる基本だ


これまでの様々な経験から、人間誰しも生まれた時から普通に持ち続けている自分肯定という前提の持てなかった私にとって、たかが当たり前の、されど最も必要で強力な基本を得られたことは画期的だった。


その前提を得ただけで、こんなにもエネルギッシュで意欲的になれるものかと呆れる程で、私以外の皆が既にこのベースの上で生きていたのかと思うと羨ましくもあった。


幼い頃の弟や妹の死という経験は、私にとって死と生の境目を無くすものであり、星子を得るまでは、安易に『死』を考えることも多かったが、人間として当たり前の意識が今改めて芽生え、ようやくそれも無くなった。


まず私が生きなければ、星子を生かすことができない。


星子を生かす為には何があっても死ぬわけにいかないのだ。


そして思いがけず私は『子供が好きだ』ということにも初めて気づいた。

死に結び付く『子供』という存在を無意識に敬遠していたのかもしれない。

失う前に失うものを避けていたのではないだろうか。


私に託された星子を育て上げるという大きな責任は、私を強く大きく成長させていった。


ひたすら、星子を無事に生かすことだけに没頭し、周囲が見えなくなることもあるくらい一生懸命だった。


当然ケンジのことも二の次になった。


決して良い妻ではなかったが、母親としては可也高い点数が取れるだろう。


夢中になって育児に依存するという次元の懸命さではなく、むしろ互いに依存しないよう、たっぷりの愛情で包みながらも甘やかさず、常に理性を失わない努力を怠らなかった。


星子の為にケンジとの関係を良くする努力もした。


それほど、本当の意味で星子という一人の人格を育てることに真剣だった。


暫くは順調だった。


ケンジも積極的に育児参加してくれた。


しかし星子もすくすく成長し思春期が過ぎる頃から、自立に向かう星子の頼もしさに一抹の寂しさを感じ始めた。


親元を旅立つ日が待ち遠しい思いと裏腹に、幼い頃愛する者達を再三奪われたことによって培われた不安感が頭をもたげてきたのだ。


単なる子離れ出来ない感覚とは次元の違うものだった。


私は焦った。


時期が来たら綺麗に子離れしようと、自分のこともそれなりに大事にしてきたつもりだった。

元々創作することが好きだった私は様々な趣味を持ち、理想的に子育てを終え、理想的に親離れ子離れすることを目標に頑張ってきた筈だった。


それなのに……ここに来てこんな不安に囚われるなんて……


確かに以前のような厭世感を伴う鬱状態とは少し違っている。


星子が生きている限りは死ねない!生きようという基本的なベースだけは失っていなかった。


私は苦しみながらも生き続ける為の、強かな策を無意識に模索し始めた。


創作より根元的な、私に生きる意欲を与えてくれるもの………

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