第18話

Ⅰ【今はさよなら】p18


まるで救いの手が私に差し伸べられたようだった。


自分肯定の出来なかった私が、自分を肯定しない限り達成出来ない、妊娠、出産、育児という大役を与えられたのだ。


赤ちゃんイコール死というトラウマを抱えた私にとって、無事な出産育児は言わばこれからの私に対するレスポンスのような気がした。


そして私は、自分に課せられた大きな責任に自信を持ち、『必ず責任を果たす』という強力な闘志さえ生まれ始めた。


出産直前まで続いた猛烈な悪阻つわり、その為に繰り返した入院、二日間に及ぶ陣痛、私を試すような試練も精一杯受けて立ち、見事丸々と固太りな女の赤ちゃんを出産した。


長かった苦しみから解き放れた解放感と、苦しみに耐えて無事に生まれてくれた我が子に対する感謝の気持ちは人一倍なのに、暫くは現実感が無く、この幸せが信じられなかった。


本当に私が産んで、本当に元気で、本当に五体満足なのか。

苦しみだけ与えられて赤ちゃんは別のところから持ってきたのではないかと思うくらいだった。


事実妊娠前までは、私の性格で育児なんかとんでもないと思い込んでいて、避妊にも抜かりは無かったつもりだし、冗談抜きで宇宙人の子でも身籠ってしまったのではないかと思ったりした。


いつか覚めてしまう夢だったり、突然居なくなったりするのではないかという不安は際限無く続いた。


何があっても失われること無く、永遠に輝いてほしい願いを込めて、娘には『星子』と名を付けた。


◾◾◾◾◾◾◾◾◾◾◾◾◾


                    🌠🌠🌠🌠🌠🌠🌠🌠🌠🌠🌠🌠🌠🌠


強烈なGがかかったような鳥肌立つ感覚と共に、私自身の意識が私の魂へと戻ってきた。


つい今しがたまでの意識は、星子のお母さんのものだったのだ。


彼女をそのまま私が体感していたのだ。


私は暫く呆然として、いつもハキハキと明るい星子のお母さんの半生に思いを馳せた。


                     そして彼女の傍に移動し、心なしか苦し気な寝顔を見つめながら、もう1度彼女の魂の中へ入っていった。


🌠🌠🌠🌠🌠🌠🌠🌠🌠🌠🌠🌠🌠🌠


挿し絵です↓

https://kakuyomu.jp/users/mritw-u/news/16818093092139430120

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る