第14話

Ⅰ【今はさよなら】p14


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次の瞬間には、幼児の私に乳飲み子の妹が居た。


小さくてやわらかい赤ん坊が弱々しく泣き出すと、すぐ姉が抱き上げた。


赤ん坊は泣き止まない。


暫くして私に渡された。


私は負ぶい紐を持って夕食の仕度をしている母の所へ行き、妹を負んぶさせてもらう。


小さな私の背中に大人しく納まっている小さな小さな妹の穏やかな顔を見て、姉も仕方無いというように引き下がるのだった。


先天的に心臓を病んで生まれてきた妹の小さな胸は、家族の中で一番小さな背中の私に負ぶわれていると都合よくハマるようで、他の誰に負ぶわれている時より大人しくしていることを皆が暗黙に了解していたからだ。


私は、そして家族皆が妹を心から愛していた。


                


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また次の瞬間、気がつくと私は昼なのに布団の中に居た。


隣りでは姉も寝ている。


二人ともインフルエンザにやられていて、学校も幼稚園も休んでいた。


しかし、インフルエンザの辛さより私達を苦しめている大きくて重い塊が私達に圧し掛かっていた。


隣りの部屋で妹が危篤状態に陥っているのだ。


生まれた時から入退院を繰り返していた妹だが、数日前退院したばかりだというのに容態が芳しく無いのだ。


朝から掛かり付けのお医者さんが付ききりだ。


ドキンドキンという姉の鼓動が伝わってくる。

私の心臓も破裂寸前だ。


隣りの部屋が妙に静かだ。


暫くすると、隣りの洋室の古い扉が開くキーという音が聞こえた。


私の不安は頂点に達していた。


私達が寝ている六畳間の襖が音も無く開き、亡霊のような父の声が静かに妹の死を告げた。


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