第12話

Ⅰ【今はさよなら】p12


懐かしい研治さんの部屋……


私の一周忌を迎えても、研治さんは1年前と同じ哀しみに打ちひしがれている。


私は彼の心の中に入ってみた。


私への想いが、1年経った今でも色濃く残っている。

むしろ、より強く大きく支配されている。


それに加え、星子への思い、奥さんへの懺悔の気持ちもあって、鬱状態に陥っている。


特に星子への申し訳無さは、父親としての彼にとって耐え難いようだ。


あぁ…研治さん……苦しい、苦しいわ。


こんな闇の中で貴方は生きているのね……


私は苦しみに耐えられなくなって、彼の心の中から飛び出した。


私は彼の肩をそっと撫でた。

やはり虚しくさ迷う私の手……


隣の部屋には星子が居る。


星子の傍に移動すると、星子は机にうつ伏せて寝ていた。


その頬に、涙の痕が幾筋もの道を描いている。


ポニーテールにした髪が生え際のところで後れ毛を造り、細く繊細な首筋を真綿のように労っている。


星子の頭の前には、私と星子が折りに触れ写した何枚ものツーショット写真が、フレームに入れて飾られてあり、その横には私の好きだったカフェオレの缶、花瓶に入ったスイートピー、線香の煙が揺れるお香立てが並べられていた。


星子独りで私の一周忌の供養をしてくれたようだ。


私は星子の心の中に入ってみた。


・・・・・そうだったんだ………


星子は総て気づいていたんだ……


それでも私と研治さんを温かく見守ってくれていた………

祝福さえしてくれていた。


それは何故?


………えっ、そうなの?

お母さんも?


つまり彼の奥さんも浮気をしていたからだったの?


次の瞬間私は、時空間の強いエネルギーで誰かの心の中に入っていく自分を感じた。

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