第11話
Ⅰ【今はさよなら】p11
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今日は深雪の一周忌。
去年の七夕からもう一年が過ぎようとしているのだ。
あっという間だったが、一日一日は無限に永かった。
この秋でやっと五十代の仲間入りだというのに、俺の頭はまるで老人のような白さだ。
星子は『シルバーグレーのお父さんて素敵よ』などと慰めてくれるが、そんな星子の優しさが俺の心をぐさりと刺す。
そう…星子は俺の気持ちに気づいていたのだ。
恐らく深雪の気持ちにも。
星子はとても敏感な子だ。
深雪が生きていた頃は半信半疑だったかもしれないが、死後の俺の憔悴ぶりで確信したに違いない。
とても複雑な気持ちだったろう。
それでも星子は、以前にも増して俺に優しくなった。
まるで、深雪に捧げる分の優しさも俺に与えてくれるように。
実際そんな思いがあったのかもしれない。
星子は元々とても優しい子だし、深雪のことも俺のことも両方とも凄く愛してくれているのだから。
俺の総てを知り尽くした天使のようだ。
きっと一生そうやって、情けない俺を精神的に支え続けてくれるつもりなのだろう。
妻は、そんな複雑な思いを抱いた星子の憔悴ぶりを見て俺も落ち込んでいるだけとしか感じていないらしい。
何の疑いも持っていない様子だ。
確かにそれも俺の中には有ったし、妻も妻でそんな星子を心配していた。
俺は、たとえ精神的にとは言え、妻を裏切っている自分を許せない気持ちが日々募った。
俺自身が、様々な自己嫌悪やら、深雪を失なった悲しみやらの複合的な苦しみで暗々とした日々を送ってきた。
そしてこれからもずっと、この苦しみからは逃れられないだろう。
諦めなければならない深雪への想いが寧ろ日毎に募っているのだから。
何か宇宙的な出会いだったのだとさえ思えるくらいに。
一周忌を迎えてもまだ生々しい深雪の死……
三回忌七回忌と年を重ねる度に、もっと生々しく苦しくなりそうだ。
時の流れが記憶を薄れさせてくれるとは到底思えない。
深雪の苦しみが時空を超えて俺の中に巣食っていくような気がする。
深雪は成仏していないに違いない。
きっと今でも悲しみ苦しんでいるのだろう。
俺だけ幸せになってはいけないのだ。
しかし、星子には幸せになってほしい。
早くこの生き地獄のような日々から抜け出してもらいたい。
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墨をマーブリングしたように平べったく渦巻きながら、時間と空間の滝を地球へと戻されて行く。
地獄へ堕ちる時は、きっとこんな感覚だろうと思えるような、肉体も無いのに肉体を持つ人間が味わうおぞましい肌寒さを感じながら落ちて行く。
ふと気がつくと、研治さんの傍に立っていた。
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