第10話
Ⅰ【今はさよなら】p10
「僕達が居るよ」という声がすぐ近くで聞こえた。
見ると、絵画から出てきたような、背中に白い羽のある裸の赤ん坊天使が二人、ニコニコしながら私の周りを飛び回っている。
天使達は自らキラキラと輝き、全身がその光に覆われてヴェールを羽織ったように見える。
真っ暗な森の中で其処だけ木洩れ日を浴びたように、うっとりする程幻想的な美しい姿だ。
形態は赤ん坊なのに、とても理知的な瞳をしており、私に話しかける言葉もまるで年上みたいだ。
確かに天使は私よりずっとずっと長く生きているに違いないが……
そしてそれは何百年、何千年、何億年かもしれないけれど……
この天使達の存在も或いは私が望む想念が作り出したものだろうか。
それでもいい。
連れがあるということは、本当に心強い。
私達の地球が生きている太陽系、その太陽系も一つの塊となって生きる銀河、銀河さえもまた一つの光となって点在する大宇宙、そしてその大宇宙すら………
我々人間の次元では想像も出来ない世界の一部であることを今確かに実感しながら、私達の銀河を文字どおり河の流れのように一望出来る位置に私は来ていた。
他の銀河だと認知できる星の塊も見える。
遠目で微かに渦巻いていたりする。
突然、すぐ傍らに何かが存在したかと思うと、次の瞬間には遥か彼方のある一点にそれが有った。
どうも光速を超えたスピードで移動しているものらしい。
それが何者だったのか、気配を感じた瞬間を凝視してみた。
透明な球型の物の中に、真剣な表情をした精悍で美しい青年が、ある地点を真っ直ぐ見つめながら立っていた。
その瞳はとても清んでいて一途。
姿は、日本が神の国と言われていた太古の神々のような出で立ちだが、多少私達の宇宙観を彷彿とさせる雰囲気が漂っていた。
若者が目指す先はアルタイル、そう、牽牛星だった。
そして今、目的地に辿り着いた若者の瞳は、透明球の前面に映し出された美しい女性に釘付けになっている。
その女性は、銀河の向かい側に浮かぶ織女星の、若者と同じ透明球の中に居る。
女性も太古の女神の姿だ。
その距離まで来ると、お互いの姿をこの不思議な乗り物のスクリーンに映し出すことが出来るのだろう。
何故其処から先へ進んで、お互いの傍に行こうとしないのだろうか。
銀河の中、或いは銀河同士での、地球で言えば政治的な軋轢のような妨害があったりするのかもしれない。
若い男女は、涙ぐみながらも逢瀬の喜びに震えている。
お互いのスクリーン上の姿に触れたり労り合ったりしている。
牽牛星と織女星………
彦星と織姫だ。
日本では、年に1度7月7日七夕の日にだけ逢瀬を続ける恋人としてロマンチックに語られる星。
もう何千年何億年こうやって虚しい逢瀬を繰り返しているのだろう。
そして、どこから遥々牽牛星と織女星がやって来るのか……
こんなあり方の恋でも、決して変わることの無い清らかな愛。
私の彼への想いは………
そう言えば、私が永遠の旅を決意したのは確か七夕の日だった。
そうだったんだ……既に地球上ではあの日から一年が過ぎてしまったんだ……
天使達が心配そうな表情で白い羽を羽ばたいている。
私はまた、少しづつ見えない力で地球上に引き戻されていることに気づいた。
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