第8話
Ⅰ【今はさよなら】p8
大きくて優しい宇宙の力が私をゆったりと包んで、未知の彼方へ運んでくれているのが分かる。
私の肉体は、今別れを告げたあの地上にあるのに、心地よい風が私を撫でてくれているのを感じる。
そう、丁度私がまだ幼い頃、幽体離脱した時のあの感覚。
あの時私は熱を出して、横になりながら幽体離脱がテーマのテレビ番組を観ていた。
私は熱で朦朧とした頭で、一瞬幽体離脱ってどんなものだろうと思った。
次の瞬間私は、天井の30㎝くらい下で浮いていた。
少しづつ天井が近づいている。
浮きながら私は、全身で心地よい風を感じていた。
髪の毛や着ている寝間着などが風でそよぐ感覚もあった。
あぁ、これが幽体離脱なのか…………と思って私の肉体があるべき下方を見ると、私の脱け殻がびっくりしたように目を見開き、此方を見つめていた。
と、同時に私は肉体に戻っていた。
あの時感じたあの風………
気持ちの良いあの風に今また包まれている。
もう肉体に戻ることは無い。
私の周りを漂っている雲を抜け出し、空を超え、永遠の旅、永遠の世界へと導かれていくのだ。
下方を見ると、既に日本地図の正確さが明らかになりつつあった。
初めて飛行機に乗った時、離陸した瞬間に抱いたあの感動は、今のこの感動を示唆するものだったのだろうか………
地上の生き物でありながら天へ上がって行くこと、いや、宇宙の懐に戻って行くことが、こんなにも至福なものだったとは。
今はっきりと言える。
そう、私は戻って行くのだ。
大きな力は、私を懐に連れ戻してくれているのだ。
どの位のスピードで移動しているのか、振り向くと大気圏を抜け、目の前に巨大な 地球の4分の1部分がドカーンと聳えていた。
海のブルーが宝石のようにキラキラと輝き、少しづつ見える場所が広がっていく。
全体が見渡せる距離まで離れた。
太陽の恩恵を受けて輝きながら呼吸する地球が、忽然と其処にある。
漆黒の宇宙……
これまで経験したことの無い、底知れぬ黒。
私が今生身の人間として一人ここに浮いていたら、恐怖のあまり直ぐ狂い死にするかもしれないと思う程深く黒い闇の中にポッカリと浮かぶ青い宝石。
その美しさに溜め息をつきながら、ずっとこのままこの宝石を見つめていたいと思った。
何十分経過しただろう。
可也の間、巨大で美しい宇宙ショーを堪能し続けていたことに気づいた。
その途端、再び私は昇り始めた。
🌠🌠🌠🌠🌠🌠🌠🌠🌠🌠🌠🌠🌠🌠🌠
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます