第6話
Ⅰ【今はさよなら】p6
このちっぽけな壺の中の灰屑となってしまった私……
これからの私に課せられた使命を果たしに、無限の世界へ旅立たなければならないの。
貴方に初めて会った時の衝撃の理由を知る旅立ち……
あの瞬間から私は、貴方に再会する時をずっと待っていた。
星子は私にとって、唯一総てをさらけ出せる友達だった。
両親は星子のことを決して良く言わなかったけれど、両親が悪く言えば言うほど、星子について何も分かっていないことを露呈するだけだった。
初めて星子の部屋に泊まった夜、貴方の部屋が隣りだったことを知って、とても嬉しかった。
同じ屋根の下に居られるだけで感動なのに、夜通し貴方をすぐ傍に感じられるなんて……
貴方は星子と私に付き合うように朝までずっと起きていたね。
貴方らしい、私の知らない素敵なジャズを流して……まるで私に貴方の存在を知らせるようにいろいろな音を響かせてくれたね。
あの時、貴方が私と同じ気持ちで居たことを今ならはっきり分かる。
泥を塗って乾燥させたようにカピカピと固まりひきつった無表情な貴方の横顔。
ちょっと触れたらポロポロ崩れて黄砂のように周囲を汚しながら飛び散ってしまいそうだ。
貴方をこんなに悲しませている私は罪人だろうか………
貴方だけではない。
星子のこの苦しみ……
そしてあんなに嫌いだった親父までも親父なりに私の死を悲しんでいる。
それに愛しい妹の由利子……
異母姉妹の妹を私はとても愛している。
あぁ……研治さん……貴方に触れたい……
でも、もう貴方に触れることは許されないんだね…
ほら、こんなに傍に居るのに貴方は私を感じることも無いし、こうやって貴方の髪を撫でようとしても私の手は虚しく空をさ迷うだけ……
泣き叫んでも声すら届かない。
だけど、仮に私が生き続けていて、すぐ傍に貴方が居たとしても、きっと私は貴方に触れることが出来なかったでしょう。
だって貴方は星子のお父さん……
私は自ら命を断った罪を償うため、すぐに天国へ行くことは許されない。
私の人生がここで終わってしまったことの意味を自分で探す旅がこれから始まるの。
貴方との関わりの謎も解かなければならない。
何年、いえ何百年、何千年……永遠の旅かもしれない。
とても苦しい旅になるでしょう。
それが自ら命を断った者の宿命らしいの。
そろそろ行かなくては………
もし私の旅を終える時が来て生まれ変わることが許されたら、また貴方と同じ時代に生きたい…
そんな希望だけが旅の支えになるでしょう。
とても不安で、もの凄く恐い。
でもこの宿命は自ら選んだもの。
貴方の為にも、総てを受け入れて旅立つわ。
「さよなら星子……
さよなら研治さん………」
🌠🌠🌠🌠🌠🌠🌠🌠🌠🌠🌠🌠🌠🌠🌠
星子は、自分の手に触れた生ぬるい風にふと懐かしいものを感じて、思わず虚空を見回した。
挿し絵↓
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます