第23話 

「……っ」

「ミハル…?…っ」

一瞬、気をやりかけて、我に返る。気遣うような視線を向ける、ライトがぶるりと体を震わせた。

「…っあ…!」

奥に熱が吐き出され、ライトの魔力がじわりと身体中に広がっていくような感覚を覚える。無意識にミハルは自分の下腹部に手を伸ばした。

「…っ…」

(温かい…)

自分の薄い腹を撫でると、ライトの存在と魔力が直に感じられるようで、幸せな気持ちが溢れ、ミハルは自然と微笑んだ。その途端、圧迫感がぐんと増す。

「あ…っ…はぁ…っ!」

「煽るなと……!」

「……っ…あっ!ああっ…!」

ライトから与えられる快感に、ミハルは再び上り詰めた。

現実に引き戻されては、また攻め苛まれ…。それが、朝になるまで、幾度も繰り返された。


◇◇◇◇


全部伝えよう。もう、後悔したくないから。


―愛している。一生、そばにいてくれ…


(それができたら、どんなに…)


ミハルはゆっくりと目を開けた。

ぼんやりとした意識。思うように動かない体。見慣れない天井。

(ここは…。ああ、そうだ…)

ライトの部屋。昨夜、共に食事をして、それから、この部屋に来た。

ふと「酔ったところにつけ込んだ」という、ライトの言葉が思い出されて、ミハルは思わず微笑む。


「…ミハル?」

その声に目線だけ動かす。徐々に意識も視界もクリアになっていき、テーブル越しにライトの姿が見えた。

「目が覚めたか?」

「はい…」

起き上がろうとするが、思うように体が動かなず、諦めて、そのままベッドに体を預ける。天井を見つめながらミハルは、前回はずいぶんと「手加減」されていたのだと感じていた。

前の時には、流れに身を任せたような形になって、ライトも遠慮していたのかもしれない。

昨夜は、ミハルもちゃんと言葉にして「好きだ」と伝えた。思いが通じ合ったことで、ライトが気持ちをぶつけてきたのだと思えば、痛みや倦怠感すら愛しい。

ミハルは、再びライトに視線を向けた。

シャツを一枚羽織り、鍛えられた胸板や腹筋が露になっている。その一点に目を止め、ミハルは息を呑んだ。

「え…」

「…どうした?…」

ミハルは自分の首に手をやり、革紐の感触を確かめる。それをたどっていくと、その先に触れたのはあの指輪だ。

「ライトさん、それ…」

ライトの首には組み紐がかけられ、胸元に銀の指輪が揺れている。それは、ミハルのものとそっくり同じに見えた。

「ああ」

ミハルの視線に気付いたライトが、

「前に『話したいことがある』と言っただろう?」

そう言って、微笑んだ。

テーブルに二人分のカップを並べ、手際よくお茶を注ぐ。

「起きられそうか?」

「はい…」

ミハルは、なんとか重怠い体を起こすが、その体はほぼ裸で、見える範囲だけでも、かなりの鬱血痕が散らばっていた。今さらそれが気恥ずかしくなって、シーツをかぶったまま、ベッドの上で膝を抱くようにして座る。

ライトが、ベッドに近付いた。

「大丈夫…ではないな」

「誰の…」

ミハルが見上げると、ライトは苦笑いで返した。自分が原因であると十分に理解しているのだろう。

両手に持っていたカップの一つをミハルに手渡すと、隣に寄り添うように腰を下ろした。

「ありがとうございます…」

ふわり香りを味わってから、こくっと口に含む。その喉ごしにミハルはため息を吐いた。

「美味しい…」

いい香りと水分が身体中に行き渡る。二口、三口と、続けてお茶を飲むミハルの姿に微笑み、ライトは自分もカップを口に寄せた。

「気に入ってもらえてよかった」

「はい、ほんとに美味しいです。お茶淹れるの、お上手なんですね」

そう言ってライトに笑いかけたとき、ミハルの脳裏に前世での一場面がフラッシュバックした。


―おいしい…!

―俺は、料理はできないからな。コーヒーくらいは、と思って…


それは、前世で、はじめて恋人の家で朝を迎えた日、幸せだった頃の思い出だ。「今は」もっと幸せだ。ふと、

(「彼」は幸せでいるだろうか…)

ミハルはそんなことを思った。

空になったカップをミハルから受け取り、ライトは自分のカップと共に、サイドテーブルに置いた。


ライトの胸元で揺れる指輪が目に入る。

「あの、それは…」

「ああ」

ライトは、自分の胸元で揺れる指輪を愛おしげに見つめ、同じ視線をミハルに向けてくる。

体を寄せ、ミハルの指輪と並べながら、

「同じ意匠だ」

サイズは少し違うが、確かにそれは全く同じデザインだった。

(まさか、材質も?)

ミハルの指輪はガンツから「その産地は特定できない」と言われていた。だから、この世界のものではないと、今までそう思ってきた。

(違うのか?)

「あの、ライトさんは、それをどこで…?」

ライトはまた微笑んで、自分の指輪を握りしめ、首に掛けていた紐を引き千切る。そして、ミハルの左手を取り、薬指に指輪を嵌めた。それは、誂えたかのようにピタリと嵌まる。

「え…?」

「これを、俺に嵌めてみてくれないか?」

ライトが、ミハルの胸元の指輪に触れた。ミハルは、革紐を首からはずし、指輪を引き抜いた。自分には大きすぎる指輪。ライトの左手を取り、その薬指に、同じように指輪を嵌めると、それもサイズがピタリと合う。

「!」

「ああ、この姿でも…」

ライトが安堵のため息を漏らす。

理解が追い付かない。胸がドキドキしてくる。

なぜ同じデザインの指輪が二つあるのか、なぜその指輪がそれぞれの指に嵌まるのか。

なにより、揃いの指輪を薬指に嵌める慣習は、「この世界」にはない。

考えがまとまらず、混乱しているミハルに向けてライトがかけた言葉は、思いがけないものだった。

「…美晴よしはる

ミハルの胸が、ドクンと大きく跳ねた。









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