第26話 レイラとのメイド契約

 なんというかもう、すごい戦いだった。

 いや、俺途中からサンドワームの体で物理的に何も見えなくなってたんだけど、最後の最後にレイラが魔法で魔人に化けて、アイシアとエリムの攻撃でデスモンが消し飛ばされるところはギリギリ見えたんだよね。


 いやうん……触れただけで魔人の力も姿も完コピ出来る魔法って何? 俺知らないよそんなの。ゲームでもなかったもん。


 そんな訳の分からん魔法を使える美少女が、なぜか俺のメイドになると言っている事実。


 いや本当に意味が分からない。何をどうしたらそうなるの? 誰か説明してくれ。


「そういえば……ドタバタしていて、ちゃんとした自己紹介はしていませんでしたね。改めて、ボクの名前はレイラです。これからよろしくお願いします、クロース様」


「あ、うん……よろしく」


 町に戻ってきた俺達は、帰り支度を進める騎士達を余所に、今更過ぎる自己紹介をしていた。


 そういえば、結局アインは見付からなかったなぁ……と思っていると、レイラは「あ、そうだ」と何かを思い出したかのように石ころを取り出し、俺に差し出す。


「これ、クロース様の物ですよね? お返しします」


「え?」


 石ころが俺の物って何? どゆこと?

 そう首を傾げていると、近くにいたエリムが手を挙げた。


「それ、私が目印に付けたやつ……ただの石ころで、先生のじゃないから……もう、捨てていい」


「あ、そうなんですね」


 じゃあ捨てときます、とレイラはその辺りに放り捨てる。


 ……目印って、そういえばエリムが付けてたな。完璧に忘れてたわ。

 あれ? でもあれって、アインに付けたやつだよな?


「なあレイラ、一つ聞いていいか?」


「はい、何でしょう?」


「レイラの魔法って、触れた相手なら誰でも化けられるのか? ローグ・ブレードみたいな偉人とか……その息子とか」


「あー……クロース様と出会った時に化けていたあれは、本物じゃないんですよ。伝え聞く噂話とよく似た子供がいたので、その子に化けて英雄の息子のフリをしてたんです」


 すみません、と謝るレイラの話を聞いて、ようやく俺は察した。


 このレイラこそが、俺が探していた“アイン”だってこと。


 そして……やっぱり記憶違いなんかじゃなく、“アインス・ブレード”こそが俺の探し求める主人公だってことを。


「そっか……変なこと聞いて悪かったな。相手は伝説の傭兵だから、俺も一度会ってみたかったんだ。忘れてくれ」


「ご期待に応えられずすみません。ですがその、ボクも情報収集には自信があるので、もしよろしければお探ししますよ」


「え、いいの?」


「はい。と言っても、ボクも一応は犯罪者の扱いなので、クロース様の許可がないと動けないのですが……」


「いいよいいよ、許可しちゃう」


「そんなにあっさりでいいんですか!?」


「うん、レイラだし」


 あんな強い奴が俺の目の届くところに居ようが居まいが、本気で逃げられたら俺に止める力なんてない。


 許可しようがしまいが変わらないんだったら、寛容なところを見せ付けて懐いて貰った方がいいだろう。


 ……多分。


「ありがとうございます、クロース様! ボク、クロース様のご期待に答えられるように頑張りますね!」


「ええと、そのクロース様って堅苦しい呼び方はやめてくれ。もっと適当に、好きに呼んでいいから」


 そんなに敬われるような存在じゃないし、俺。

 そう思って遠慮の言葉を口にしたんだけど……。


「適当なんて、そんな……でも、好きに呼んでいいのでしたら、ボクは……ご主人様とお呼びしたいです!」


「…………」


 どうやら、逆効果だったらしい。

 なんで余計に堅苦しくなっちゃうの??


「ダメでしょうか……」


「いや、いいよ。好きに呼んでくれって言ったのは俺だしな」


「ありがとうございます!」


 まあ、レイラは一応うちのメイドになるんだし、少しくらい堅苦しい方がいいか……。


 そう自分に言い聞かせながら、俺は伝え忘れていたことを思い出し、何の気なしに告げておく。


「そうだ、メイドとして働くのはいいけど……うち、そこまで裕福じゃないから、給料はそこまで高くないぞ。それでもいいか?」


「え……給料なんて出るんですか!?」


「当たり前だろ」


 俺をなんだと思ってるんだ、こいつは。


「それと、俺の小遣いの範囲内になるけど、ローグ・ブレード……いや、特にその息子の調査に必要な費用も多少は出そうと思うから、遠慮なく言ってくれ。出せるかどうかは金額次第になるけど」


 アイシアへの給料も俺の小遣いから出てるしな。

 騎士団である程度地位を固めたら、俺の腹心になることになってるし……いずれはアインスの所に行くにしても、それまではちゃんと支払わないと。


「ありがとうございます、それならボクもすっごく動きやすいです!」


 キラキラと瞳を輝かせるレイラを見ながら、俺は気にするなと手のひらを向け、さっさと踵を返す。


 俺もそろそろ帰り支度を整えなきゃいけなかったのと、俺の小遣いからいくらまでならレイラに回せるのか、真面目に計算しないといけなかったからだ。


 精一杯捻り出しても、大した額にならないよなぁやっぱり、と世知辛い世の中を嘆く俺には、想像もつかなかった。


 元々僅かな金であっちこっち飛び回り、暗殺組織であらゆる工作活動を行ってきたレイラにとって、その“端金”でどこまでのことが出来るのかということを。

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