第24話 黒棺との遭遇

 アインを探すために「まだ用事は終わってない」と発言したら、なぜかウロボロス傘下の暗殺組織の一つを束ねるリーダーがここにいるって話になった。


 自分で言ってて意味が分からないんだが、こいつらは俺を予知能力者か何かだと思ってるんだろうか?


 ともかくそういうわけで、訂正する暇もないままあれよあれよという間に捜索部隊が編成され、坑道の中に突入することになった。


 俺も一緒に。


「……なんで俺も連れてこられたんだろうなぁ」


 ポツーン、と取り残された坑道の中で、俺は一人ボヤく。


 いやね、坑道に入る段階では、みんなと一緒だったんだよ。アイシアとエリムとレイラ、それにグレオさんもいてな。


 エリムは一応王女様なんだし、坑道の中なんて入ったらマズイだろうって話もあったんだけど、絶対について行くって強行されたんだよね。


 それでまあ、いるかどうかも分からない……というか元が勘違いなので確実にいないと断言出来る“黒棺”とやらを探して、過剰戦力四人に足手まとい一人という、バランスが良いんだか悪いんだか分からないチーム編成で突入したんだよ。


 そして、はぐれた。俺一人だけ見事に途中で置いてかれた。


 アイシアが、このメンツなら本気で走っても大丈夫とか言ってめちゃくちゃ走り出して……グレオさんとレイラは普通に追従し、エリムも小さな岩に腰掛けてそれを傀儡魔法で操作するなんて裏技で空を飛び、全員あっという間に見えなくなってしまったんだ。


 俺はそんなに速く動けないんだが? イジメか?


「まあいいや、これで帰る口実が出来たし」


 はぐれちゃったんだから仕方ない、一度合流するために出口を目指すのは合理的な判断だ。


 というわけで、来た道をゆっくり戻り始めて……。


「すぅー……ここ、どこ?」


 迷った。うん、元来た道が分かんねえ。

 何なら出口に近付いてるのか奥に向かってるのかも分からねえ。


「……え、これって結構ピンチなのでは?」


 一応携帯食料とかもあるけど、どれだけ節約して食べようがそう何日も持つものじゃない。


 早くみんなと合流するか、出口を探し出さないと。


「おーい、みんなどこだー」


 声に出しながら、適当に方向を決めて歩いていく。

 まあうちの弟子達は常軌を逸したチート集団だし、俺がなかなか出てこないとなればすぐに探しに来てくれるだろう。多分。


 そんなわけで、俺は遭難者でありながら現状をそこまで深刻には捉えていなかった。


 坑道の中にいるのはアイシア達だけじゃないんだし、誰かしらと合流することも出来るだろうと。


 そんな俺の甘い考えは、強ち間違いでもなかった。

 ただし。


「おや……? こんなところで真っ先に出会うのが子供だとは思わなかったな。君は誰だい?」


 明らかに騎士じゃなくて、背中にデカい棺を背負ってる怪しさ全開の男に遭遇した。


 ……いやいやいや、まだ断定するには早いよ、もしかしたらそれっぽい特徴を備えてるだけの無関係な他人かもしれないじゃん?


 正直ゲーム内でも見た記憶のある顔してるけど、それでも望みを捨てるにはまだ早いと思うんだ。


「俺はクロース・デトラーです。ちなみにあなたは?」


「私かい? 私はデスモン・ブラック。人によっては、“黒棺”なんて呼ぶ人もいるね」


 はいアウトーー!! どう考えてもウロボロス所属のヤベー奴です!!


 なんでそんなヤバい奴が本当にここにいて、しかも俺が一人でいる時に遭遇しちゃうんだよ。どんな偶然だよ、もはや呪われてるんじゃない?


「そうですかー……じゃあ俺は仲間と合流しなきゃなんで、お互い気を付けて帰りましょうねー」


「まあ待ちたまえ。ここで会ったのも何かの縁だ、少し話をしようじゃないか」


 俺は全く話したくないし縁なんて感じたくもない!!


 けど、こいつを怒らせると俺は一瞬で死ぬことになりそうなので、逆らうわけにもいかない。


 というわけで、俺は怪物級の危険人物とお喋りに興じなければいけなくなった。ぐすん。


「君はなぜここに?」


「妹分達がどうしても入ってみたいというもので、その付き添いですね。まあ、見ての通りはぐれてしまったわけですが」


 嘘は言ってない。アイシア達は妹分だし、エリムがどうしても行きたいと駄々を捏ねたのも本当だ。


 だからなのか、黒棺……デスモンは俺の言葉を疑うことなく、うんうんと何度も頷く。


「なるほどね、それは大変そうだ。実は私もね、連絡が途絶えた仲間を二人、探しに来たんだ」


「へ、へぇー、そうなんですか」


「ああ。一人は女の子でね、この坑道に魔物を誘導し騒ぎを起こせば、身を隠すのにちょうどいいと考えてここに現れると踏んでいたんだ」


「…………」


 お前かよ、この坑道の魔物騒動起こしたの。

 いやでも、こいつの力を考えれば、不思議でもないのか。レイラ一人のためにそこまでするのは頭おかしいけど。


「もう一人の男はね、その女の子を迎えに来て貰ったんだけど、こちらも途中から行方不明になってしまったんだ」


 デベロッパー、アレでちゃんとマメに連絡を取るタイプだったのかよ。意外過ぎるわ。


「ねえ……君は何か、知らないかな?」


 そしてこの質問である。

 もうこれ、俺が関係者だって絶対見抜いてるよね? 見抜いた上で聞いてきてるよね?


 身の危険しか感じないので、念の為幻影を出しておこう。


「……この町にいる騎士達に聞けば、何か分かるんじゃないですかね?」


「ふふふ、なるほど、正論だ。君は口が上手いね」


 そう言って、デスモンはこっちに歩み寄ってくる。

 幻影だけをその場に残して、デスモンが一歩近付く度に俺は一歩遠ざかって距離を取っていく。


「だがお陰で確信出来た。君はやはり、騎士団の関係者で……デベロッパーとレイラの行方を知っている」


 デスモンがそう言った瞬間、奴の背負う棺が勢いよく開き、中から漆黒の腕が無数に伸びてくる。


 それは俺の幻影に殺到し、凄まじい音を響かせた。


「おや? 手応えがない……高速移動、という感じでもなかった。幻影か何かかな?」


 あっさり見破られたよ!!

 幸いというか、幻影そのものを見切られたわけじゃないみたいだし、ここはどうにか幻影魔法で時間を稼いで、逃げるしかない!!


「《幻影分身パレード》!!」


 分身を山盛り出しながら、俺自身は透明化して全力ダッシュ。


 これでどうにか……。


「素晴らしい魔法だが……ふふ、足音で位置がバレバレだよ!!」


 漆黒の腕を足代わりにして、デスモンが一気に迫ってくる。俺が撒いた分身は全部無視して。


 ちくしょう!! 俺の取り柄なんてこれしかないってのに、もう通じなくなるのかよ!! インフレ早いよ!!


 でもそれも仕方ないか、こいつゲームでも結構大物ボスとして出て来るしな。


「そこだ」


 あっという間に追い付かれた俺を狙い、漆黒の腕が殺到する。


 ああ、ここまでか……と、全てを諦めて脱力した──その瞬間。


 デスモンの足下が崩落し、落ちて行った。


「何!?」


 後で知ったんだが……この辺りは既にアイシアとレイラが散々暴れ回り、サンドワームなどの魔物によってアリの巣のように無数のトンネルが掘られた状態になっているらしい。


 そんな場所でデスモンが派手に動いたことがトドメとなり、地面が崩れてしまったんだろう。


 そして、何の偶然か……俺とデスモンがいたその場所の真下には、アイシア達がいて。


 今まさに、魔物の残党を見付けて全力で攻撃するタイミングだったらしい。


「……は?」


「《闇巨剣ダークブレード》!!」

「《パパ、叩き潰して》」

「《複製変身ドッペルゲンガー》、《闇巨剣ダークブレード》!!」


 巨大な闇の大剣が二本と、岩で作られたやや小ぶりなゴーレムの拳が、落下したデスモンに直撃する。


 その背後にいたサンドワームらしき魔物もろとも派手に吹き飛んだデスモンは、そのまま派手に壁に叩き付けられ動かなくなった。


「奴は、まさか……“黒棺”!? なぜ上から!?」


「あ、師匠だ!! おーい、師匠〜!」


 真っ先にアイシアが俺の存在に気付き、天井にいる俺の方へ大きく手を振った。


 それに気付いたグレオさんは、俺を見るや否や化け物を見る目で呟く。


「ま、まさか……これを狙って一人で別行動を取っていたのか!? 黒棺を誘導し、こいつらの一斉攻撃を合わせるために……!!」


 ……いや、違うけど??

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