第15話 奇跡(?)のその後

 昨日起きた三つの出来事!

 一、王都を散策してたら誘拐された。

 二、気が付いたら牢屋の中にいたから、近くにいたグレオさんに助けて貰うべくエールを送った。

 三、突然洞窟が崩落して生き埋めになり、一緒にいた謎の子供達を励ましつつ救助を待ってたら、なぜか全て俺がやったことにされていた。


 うん、改めて考えても意味が分からん。俺、百パーセントただ巻き込まれただけの被害者なんですけど?


「はあ……疲れた」


 助け出された後、王都まで戻ってきた俺はグレオさんに呼び出され、それはもう長いお説教を食らうことになってしまった。


 あんな派手な事をするなら事前に教えろだの、もっと穏便な手段を取ってくれだの言われたが、そんなことは俺に言われても困る。


 そんなこんなでやっとこさ解放された時には、既に空も茜色に染まり、宿に帰る時間となっていた。


「師匠ーー!!」


「先生……!」


「アイシア、それにエリム」


 そんな俺を出迎えてくれたのは、可愛い教え子二人だった。


 全く身に覚えのない容疑(?)で説教されていた俺の目には、無邪気な二人の姿はまるで天使のように映る。


 ああ、癒されるなぁ……。


「師匠、聞いたわよ! 騎士達を休ませてる間に、王都で活動してた誘拐組織をぶっ潰したって! 流石師匠、すごい!!」


 違った。ある意味当然なんだけど、この思い込みの激しい一番弟子も俺がなんかやったと思ってるらしい。


 これ以上ないくらいキラキラと瞳を輝かせながら詰めてくるアイシアを、俺はどうどうと宥める。


「別に大したことはしてないよ……それより、お前達はちゃんと王都を楽しめたか? 随分と仲良くなれたみたいだけど」


 アイシアが敬語を忘れてる時は、興奮しきっていて何を話しても無駄だ。なので、上手いこと話題を逸らして有耶無耶にしてしまった方がいい。


 そう思ったんだけど、事はそう上手くいかなかった。


「そう、それよ! 私達も変な男達に誘拐されそうになってね、とりあえず魔法でビビらせたら逃げてったんだけど……あれ、思ってた以上に悪いやつらだったのね、ぶつけてやればよかったわ!」


 どうやらうちの教え子達も、俺が潰したことになってる誘拐犯達の仲間とやり合っていたらしい。


 なんでもあの誘拐犯共、攫った子供の身代金を要求するだけに留まらず、あれこれと言い訳して支払いを引き延ばそうとしたり、要求額に満たない金しか用意出来なかったりした時は、子供を売り飛ばして金に換えていたらしいんだ。


 ……生きたままだと足が着くから、内臓をバラして。


 だからまあ、それを騎士団の誰かから聞かされたんなら、アイシアがこれだけカッカするのも分かるんだけど、お前の魔法なんてまともに受けたらミンチより酷いことになりそうだしやめてやれ。


「アイシア……やり過ぎは良くないよ……」


 エリムがそう言って、アイシアを宥める。


 うんうん、エリムは流石王女様だな。その優しさをアイシアにも分けてやってくれ。


「半殺しにして、牢屋に入れて、拷問しながら犯した罪を命尽きるまでゆっくり懺悔させなきゃ……」


 うん、ダメだ、エリムも……というかエリムの方が発想がエグかった。


 こいつらは絶対に怒らせないようにしよう、と心に誓いながら……俺はふと、ゲームにおけるエリムの悪堕ち展開について、一つあることを思い出した。


 確か、この子が悪堕ちする切っ掛けって、誘拐事件じゃなかったっけ?

 誘拐され、身代金を要求された王家が、その支払いを拒絶した。


 犯罪組織なんかに王家の資金を流すわけにはいかないっていう、至極真っ当な理由ではあるんだけど……まだ子供だったエリムにそんな事情が分かるはずもなく。


 力のこともあって歪んでいたエリムは、そのまま犯罪組織を支配して復讐を誓う……とかそんな話だったような。


「……エリムのフラグ、もう折れたのか……?」


「先生……?」


「ああいや、何でもない」


 流石に、なんかよく分からん事故でほぼ勝手に潰れた誘拐犯が、エリムにとっても……この国にとっても命運を左右するレベルの重大事件の犯人ってことはないだろう。


 油断はしないように、気を付けないと。

 ……気を付けても何も出来ないんだけど。


「とにかく、今日のところはもう帰ろう。エリムは……俺が城まで送るよ」


「先生……今日も一緒に寝たらダメなの……?」


「何度も言ってるけど、王女様の部屋で俺みたいな身分の人間が一緒に寝るとか大問題だから」


「じゃあ、先生の部屋で……」


「どっちの部屋でも一緒だよ」


「…………」


 俺がすげなく断ると、エリムは寂しそうに俯く。

 どうしたものかと考えて……せめてもの妥協案を口にする。


「……アイシアは騎士団見習いで、同性だ。護衛騎士ってことで、夜も同じ部屋に入れるかもしれない」


「っ……!!」


 俺の提案がよっぽど嬉しかったのか、エリムの表情が一気に華やいだ。


 うん、本当に仲良くなったみたいで、俺も一安心だよ。


「アイシア、エリムを城の中まで送ってやってくれ。俺は……もう一度グレオ団長のところに顔を出して、許可を貰えないか相談してくるから」


「分かったわ! 行きましょ、エリム!」


「う、うん……!」


 アイシアとエリムの二人が、手を繋いで走っていく。


 それを見送った俺は、改めて許可を貰うべくグレオさんの下へと戻る。


「流石にもう説教の続きとかはないよな……?」


 先ほど散々聞いたそれを思い返し、少しばかりげっそりしながら王城の敷地内にある騎士団の詰所へ向かうと……グレオさんの姿はなく、先日アイシアと戦っていた若い騎士の姿があった。


「あ……これは、クロース殿。お疲れ様です」


「ええと、あなたは……」


「そういえば、まだ名乗っておりませんでしたね。自分はルクス・バーンズ、王立騎士団副団長を務めさせて頂いております」


「そうでしたか、ルクスさん、よろしくお願いしま……」


 ……え、副団長? この人副団長なの!?

 じゃあアイシアのヤツ、もう既に副団長より強いってこと? え、強すぎじゃない?


「聞きましたよ、誘拐犯達を一網打尽にしたと。随分と無茶をされたそうですが……」


「誤解です、俺は何もしてませんから」


 いや本当に。


「ふふ、そういうことにしておきましょうか」


 別に誤魔化したわけじゃないのに、なんだかそういう感じの解釈をされてしまっている気がするぞ、これ。


 訂正したいけどどうやってすればいいかも分からず、内心で頭を抱える。

 そんな俺に、ルクスさんは笑顔で頭を下げた。


「ご指導の件といい、ありがとうございました。あなたの言う通り、自分は近頃騎士としての仕事と訓練にばかりかまけていて、何のために剣を取ったのか、初心をすっかり忘れていたようです。一日しっかり休みを取り、自分の知らないところで事件が一つ解決されたと知って、ようやくそれを思い出すことが出来ました」


「そ、そう……力になれたなら、良かったです……」


 教えることが何もないから適当に休めって言っただけなのに、なんでこんなに感謝されているんだろうか。


 なんかもう、申し訳なさ過ぎて泣けてくるんだけど。


「そ、そんなことよりですね、一つご相談がありまして……」


「なんでしょう? クロース殿の頼みであれば、何でも聞きますよ」


 そんなキラキラした目を向けないでくれ、別に大した頼みでもないから。


「エリム……王女が、一人部屋で過ごすのはもう耐えがたいようで。アイシアは同性で歳も比較的近いですし、専属護衛として共に過ごさせてやることは出来ないでしょうか?」


「ふむ……見習いが王族の専属護衛というのは前例がないですが……他ならぬクロース殿の頼みですし、何とか手配しておきましょう」


「ありがとうございます」


 よし、当初の目的は既に達した。

 これ以上話しても余計に誤解が深まるばかりな気がするし、俺はとっとと退散するとしよう。


「それでは、俺はこれで」


「はい、また訓練場でお待ちしております、クロース殿」


 そそくさと退散する俺に、しれっとまた指導官をやってくれと要望してくるルクスさん。


 一刻も早く誤解を解きたいんだが、今回の一件で変に功績が出来てしまったし、このままだと非常にマズイ。


「こうなったら……俺が自分で探しに行くしかないかもしれない」


 本物の英雄を目にすれば、アイシア達も、騎士団の人達も、目を覚ましてくれるだろう。

 この世界の主人公……アインス・ブレードを探して、ここへ連れて来る!!


 そんな決意を胸に、俺は帰路に着くのだった。

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