御本尊
ツヨシ
第1話
近所の神社の神主が、謎の金属を「御本尊だ」と言い出した。
来る人来る人に見せびらかすので俺も見たが、延べ棒のような形をした、ただの加工された鉄の塊に見えた。
たまに石などを御本尊とする神社はあるようだが、なにかはわからないが金属を御本尊にするなんて、聞いたことがない。
しかしそれを披露する神主は、とにかくえらく誇らしげなのだ。
「これでうちの神社も安泰だ」
しかし、そうはならなかった。
あの金属が消えてしまったのだ。
なくしたか盗まれたのかそれはわからないが、神主は怒りと悲しみと憐みと足してそれに百をかけたような顔で、そこらじゅうを探していた。
近所の人が気味悪く思うほどに。
そんなとき俺は他県への出張が決まり、一年ほど故郷を後にした。
その間、一度も故郷に帰らなかった。
一年後、帰ってすぐに神社の近くで男と出くわした。
ぼろぼろでよれよれの汚れた服を着ていて、ひどくやせ細った身体に長いぼさぼさの髪。
そして無精髭。
一言で言うと絵に描いたようなホームレスだ。
――誰だ、あれは?
俺の家は結構田舎だ。
近所の人の顔はみんな知っているが、その男にはまるで見覚えがなかった。
家に帰り嫁に言うと「ああ、あれは神主さんよ」と言った。
「神主だって?」
神主は結構ふくよかな体つきで、おまけにいつも身ぎれいにしていたはずだ。
それがあんなにも汚くて痩せた男になっているだなんて。
嫁は続けた。
「それがねえ、あの御本尊とかかなくなってから、神社も神主さんも笑っちゃうほどにどんどんみすぼらしくなっていったのよ」
それがほんとうなら、原因はあの御本尊がなくなったためと言うことになるのだが。
あの加工された真新しい鉄に見える塊に、そんな力があるとは思えないのだが。
あの金属は一体なんなのだ。
周りの人に聞いても、誰も知らなかった。
神主本人に聞いてみようかとも思ったが、結局それはやめた。
終
御本尊 ツヨシ @kunkunkonkon
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