第58話


『…それで、夕さんを探しに、自販機のところに行ったんですけど…』



たまに小さな相槌が聞こえるだけで、自分の声だけが響く空間。



どこからどう話せばいいのか、迷いながら話しているから、恐らく1時間弱くらい経っている気がする。



『…2人の会話が聞こえちゃって……』



思い出しながら話していると、2人の影とリップ音が鮮明に頭をよぎる。



それを紛らわすかのように、視線を泳がす。



相変わらず、前を向いたままの未緒さんは、どんな表情をしているのかわからない。



『見てないからわからないけど、状況からして…キスしてた』



今日あったことは、全部話してしまいたくて、言葉を繋いでいく。



『2人、付き合ってたなんて知らなかったし…お互い敬語だし。いや、自販機のところではタメ口だったけど…』



『僕がソロでやるってなったとき、やたらとギターの練習を勧めたり、先生を紹介してくれたのって、僕のことを考えてのことじゃなかったんだなって…』



感情が声に現れてきて、声が震えて早口で、それでも話し続ける。



それが伝わったのか、未緒さんの背中が少し動いて、膝を抱える手に力が入った。



『僕だけが、こんな好きだった…。全部、別の人への愛情だったなんて思いたくないけど、でも、……』



今日の様子を見て、夕さんの心の片隅にも、僕個人への気持ちはないことがはっきり分かった。

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