第55話
『……ごめんなさい』
どれくらい時間が経っただろうか。
いつの間にか涙は止まって、息も落ち着いていた。
未緒さんから離れたとき、手が赤くなってしびれていて驚いた。
人を抱きしめただけで、こんなになることあるのか…
と、同時に、未緒さんの体が心配になった。
「大丈夫?」
僕が聞こうと思ったセリフは未緒さんに先を越された。
「紅茶、淹れなおしてくるね。ついでに着替えてくる」
何事もなかったかのように、にこやかにそう言って、立ち上がる。
未緒さんの背中の感触が、手のひらにまだ残っていて、思わず後ろ姿を目で追っていると、未緒さんの背中には僕の手が握ってしまっていたであろう皺が深く残っていた。
…あぁ、泣きすぎて頭痛いし、目腫れてる…
ソファの背もたれに体を預けながら、今日1日の行動を後悔する。
「これよかったら使って。服洗って乾燥機かけとくよ。私あっち行ってるから」
目元を冷やすように、手の甲を当てて項垂れていると、未緒さんが戻ってきた。
冷たいタオルと、スウェットを渡してくれた。
どうやら未緒さんの服だけでなく、自分も涙で濡れていたらしい。
…どれだけ泣いたんだ……
『本当、すみません。ご迷惑おかけしました…』
「え!全然!これ、先に洗濯機入れて来るね。そのあと紅茶飲もう!」
キッチンで背中を向けてくれていた未緒さんに、声をかけると、服を受け取って微笑んだ。
未緒さんって、子どもっぽいところが多いと思っていたけど、こういうところ、大人っぽいんだなぁ…
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