第53話

『おじゃましまーす…。不用心すぎません?鍵これでいいんですか?』




部屋番号を確認してから、ゆっくりとドアノブを回すと、柔らかいオレンジの明かりと温かい空気に包まれた、




それだけで落ち着きを取り戻して、戸締りを確認する余裕もできた。




「…出ていくの、よくないかなと思って。」




ぱたぱたと奥のドアから出て来た未緒さんは、白ニットと黒いロングスカートを着て、暗い色のボブヘアを揺らしていた。




「こっち、どうぞ」




『あ、いや、玄関でいいです、本当に』




手招きされて、慌てて断る。




未緒さんだって、僕だって、そういうつもりはないのわかってるけど、万が一、ということが起こり得る…という可能性はないとは、言いきれない…だろう、という、状況で。




そういうことを考えると、先ほどの夕さんの光景を思い出しそうになる。




いや、違うから。僕と未緒さんは、違うから。




「えぇ…あ、ケーキあるの。紅茶も入れるから、どうぞ」




僕が玄関で立ち止まって、何も言わないで突っ立っているのを見かねた未緒さんがまた声をかけた。





『んー……じゃ、手洗わせてもらいます』





…違うから。




悩んだ末、靴を脱いでしまった。




まぁ、話聞いてもらうのに玄関で立ち話も…




それに、部屋に入るとなったら、未緒さんが少し嬉しそうに見えた。

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