第52話

<h:今どこにいますか?会えませんか>




この苦しさを、1人で抱えきれなくて、外に出た瞬間にメッセを打ち込んだ。




結局、大通りでタクシーを拾って、少しの可能性をかけてメッセ相手の最寄り駅を告げた。




ちょうどいいタイミングで既読がついたメッセに、すぐまた返信を打ち返す。




運転手さんが話しかけてくれたけど、声が上手く出せない。




…というか、一言でも発してしまうと、溢れ出してしまいそうになるから。




<h:未緒さんの家に行ってもいいですか?玄関でいいので>




この状況で唯一頼れる未緒さんが、駅近のカフェにいると知り、断られるだろうと思いながらメッセを返していく。




<にしおり みお:何もないけど、いいよ>




まさか、OKの返事をもらえるとは思わなかった。




…タクシーは着実に駅に近づいているんだけれど。




さすがに、玄関で。話を少し聞いてもらったら帰ろう。




そう心に決めて、未緒さんの家に向かった。




なんとかタクシーのお会計を手短に済ませ、マンションの自動ドアの1つ目を通り抜けたところで気づく。




…未緒さんの部屋番号知らなかった。




声を出すのを渋っていたけど、この方が早いから仕方がない。




咳払いで喉の調子を整えて、短い通話をかけた。




電話越しで聞こえた数字をインターホンに打ち込むと、通話を切る前に自動ドアが開いた。




手短に済ませる感じにも、何故か未緒さんらしさを感じて、ほっとする。




エレベーターで5階に上がって、コンクリートの床を進む。




電話越しの、”玄関開けとく”の言葉に不用心さを感じて、少し速足で。




気づいたら、さっきまで堪えていた涙はどこかへ消えていた。

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