第42話

『もしもし』




「何号室ですか?」




『503だよ。玄関開けとくから、入ってきていいよー』




20分ほど経ってから、スマホに着信が入った。




どうやらマンションのエントランスに着いた様子の颯都くん。




電話越しの声は、メッセージのやり取りと比べて落ち着いていて、私の知っている彼のものだった。




エントランスまで迎えに行こうとも思ったけど、”誰かに見られたら”のリスクを常に背負っている彼に迷惑にならないように…と考えた結果、エントランスを開けた後に玄関も開けておくことにした。




外は寒いから、温かい飲み物をとケトルのスイッチを入れる。




マグカップやケーキ用のお皿を用意していると、玄関が開く音がした。




扉が閉まるの音を聞いてから、廊下へと出た。




「おじゃましまーす…。不用心すぎません?鍵これでいいんですか?」




2週間ぶりに見た彼は、マスクも帽子もしてなくて、素顔をマフラーに埋めていた。




『…出ていくの、よくないかなと思って。こっち、どうぞ』





「あ、いや、玄関でいいです、本当に」





『えぇ…あ、ケーキあるの。紅茶も入れるから、どうぞ』




「んー……じゃ、手洗わせてもらいます」




『うん。洗面こっち。荷物もらうよ』




「ありがとうございます」





片方の肩にかかっていたリュックに手を伸ばすと、意外にもあっさり受け取ることができた。




手を洗っている間に、お茶の準備をする。




「おじゃましまーす…」




『はーい。ソファ座ってて。コーヒーか、紅茶か、緑茶もあるけど…何がいい?』




「じゃあ、紅茶で…」




少しきょろきょろしながら、荷物を置いたソファに座る彼。




…なんか変な感じだけど、久しぶりの来客は、嬉しいもんだな…

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