第37話

「じゃあ、また」




『…ありがとう。気を付けて』




どうにかこうにか、タクシー代だけは払わせてもらって、タクシーを降りた。




手を振ってくれる彼に、手を振り返して、マンションへ入る。




タクシーなんて、人生で数えるほどしか乗ったことなくて、そわそわしてしまった。




そういえば、今日来るときも颯都くんはタクシーだったのか…




見えているかわからないけど、タクシーが見えなくなるまで見送る。




1人になって、酔いも冷めると、ここ1週間の出来事が夢のように感じた。




特に、今日は。




思い返すと、たくさんのヒントを落としてくれていたけど、目の前の彼に夢中になりすぎていたようだ。




『…落ち着け……』




思わず独り言をつぶやくくらい、気持ちを整理できなくなっている。




でも……”友達”とか”またね”とか、言うけど、今度は次の約束はない。




仕事柄のこともあるし、こちらから連絡する用事もないし…




颯都くんに会える未来なんて、そう簡単には訪れないのだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る