第36話

『ごちそうさまでした』




「タクシー呼んでるんで、行きましょう」




「はやちゃん、今日もありがとね~。お姉さんも、気を付けて」




頼んだものを全て平らげて、個室を出ると、弦さんが迎えてくれた。




『お会計お願いします』




「あれ、もう貰ってるよー?」




『えっ』




「今日は付き合ってもらったんで、ご馳走しますよ。さ、行きましょう」




さっと帽子を被る彼がさらっと言う。




『いやいやいやいや…、これも頂いたから払うよ』




「だーいじょうぶです!あ、ほら、タクシーきた!」




ぱっと腕を掴まれて、店の外に出た。




せめてもの、弦さんに会釈をして、酔いが一気に醒めるような冷たい空気に触れる。




「海浜方面までお願いします」




『えっ、先いいよ!ていうか私電車でっ』




「しーっ!」




『ごめん…』




ぴっと人差し指を口元に当てた彼に叱られた。




酔っ払い、恐るべし………!




『今日、ごめんね…いろいろと…』




「なんでですかー?僕楽しかったです。いいものも買えたし、弦さんにも会えたし」




いいもの、と香水の紙袋を持ち上げた。




プレゼントの方じゃなく、そっちを言ってくれるんだ…




『…私こそ、ありがとう。これも、大事に使うね』




「はい、ぜひ」




微笑む彼は、暗くても、マスクをしていても、もう颯都くんだとわかる。




偶然だったとはいえ、アイドルと普通に話す日がくるとは…

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