第35話

「え、なんで?」




『え?うわ………ごめん、なんでだろう…』




成り行きで隣に座ったままの颯都くんを、思わずじっと見つめていると、本当に涙が出てきていた。




…酔っ払いの失態が過ぎる……




早く止めなきゃと、ハンカチを求めてカバンを手繰り寄せる。




「未緒さんって、泣き虫?」




ハンカチを手にする前に、彼が自分の袖をとんとんと優しく目元に当てた。




「初めて会った日も、泣いてましたよね」




近距離で微笑む彼に、酔っ払いの脳は限界で、涙も引っ込む。




ぽんぽん、と子どもをなだめるように頭に手が置かれた。




…これは、”リア恋製造機”だ、絶対…




『ごめん、酔ってるんだと思う…。ウーロン茶飲んだら帰るね』




「了解です。あ、僕お手洗い行ってきます」




『わかった』




身軽に立ち上がった彼が部屋から出ていく。




……夢のような空間だった。

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