第32話

『…どうしよう…』




「何を?」




『私、気づいてなくて…』




「ですよね。ライブでバレるかと思ったんですけど…(笑)」




『あの、帰る…ね』




「ストップストップ!座ってください!とりあえず、はい、乾杯!」




ガチャン、と再びジョッキがぶつかる。




黒っぽい液体の入ったジョッキを右手に握らされ、立ち上がりかけた体を元に戻して、口をつけた。




『…おいしい』




「弦さんのおすすめにハズレはないですから。これも、どうぞ」




いつの間にか取り分けられたサラダが、目の前に置かれる。




『…いただきます』




にこにこの…颯都くんが目の前にいる。




「このお店、よくメンバーとも食べにくるので、セキュリティとかは安心してください。それと、未緒さんとはプライベートで知り合ったし、未緒さんはファンじゃないし…。まぁ、とにかく、友達として、これからも仲良くしてもらえたら嬉しいです」





『友達……』





「はい。だってもう、好きな人とか言っちゃったし」




『…だいぶ秘密を知ってしまったような……』




「そうですねー。だから、責任取って仲良くしてよね」




マスク越しの笑顔で十分きらきらしてるのに、素顔で真正面から見る笑顔は、もう…ぎらぎらだ。




耐え切れなくて、ジョッキを傾けてビールを流し込む。




あんまり飲んだことなかったけど、ごくごく飲むと美味しさが増す気がした。

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