第31話

「ドリンクお待ちー。これサービスね」




「わー、やったー!」




『ありがとうございます』




いくつか厳選したメニューを注文し終えたころ、ドリンクが到着する。




”弦さん”がジョッキを目の前に置いてくれて、すぐに扉が閉められて、また2人きりの空間になる。




「じゃ、かんぱーい」




『かんぱ…………』




コーラをジョッキにぶつけた彼が、片手で雑にマスクを外した。




ぐび、とコーラを煽ると、被っていた帽子も外した。




完全に露になったお顔は、見覚えのあるものだった。




「んま」、と彼が漏らした声に、心臓が聞いたことのない音で飛び跳ねた。




名前を聞かなくても、彼のことを知っていた。




何故、今まで気づかなかったんだろう。




関係者席のライブチケット、深夜に出会ったライブの日、ギターを背負う背中、イニシャルだけのアカウント、予定が直前までわからないこと。




そして、特徴的な暖かくて優しい声……









『……我利がり 颯都はやとくん……』








「え、すごい、フルネーム!よく知ってますねぇ」







にこやかにサービスのポテトフライを摘まむ、彼…改めて颯都くん……。




…本物、だよね?




この声、ライブ会場で聴いていたのに…、なんでわからなかったんだろう…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る