第18話
最寄り駅に着いて、改札を出る。
もしかして、なんて少し期待をしたけど、当たり前のように彼の姿はそこにない。
あの日がまれだったから、もちろん今日は誰にも声をかけられず、駅前を通り過ぎた。
途中、コンビニに寄って夜ご飯を調達する。
レジを終えて、コンビニを出てから、やっぱりカフェオレとスイーツも買えば良かったなぁ…なんて考える。
青い建物が見えて来た頃、ふと、音楽の奥で足音が聞こえた。
普段、人が通ることなんて少ない道なのに…
と、少し身構える。
「未緒さん」
今度は、音楽を背景に、まっすぐ耳に飛び込んできた声。
忘れられない声にぱっと振り返ると、間違いなく彼がそこにいた。
「ふは…会えた…」
『え…走った?』
「ちょっと、ね。そこのビルに居て…窓から未緒さん見えたから、急いで支度しました」
灰色のコンクリートの3階建てのビル。
人の出入りは見たことないけど、いつも夜遅くまで電気がついていて、何のビルなんだろうって気になっていた。
「送ってもいいですか?」
『え……うん。』
帽子とマスクの間で、綺麗な二重が細められた。
まだ、素顔を見たことないけど、本当に綺麗なお顔をしている。
「そうだ、これ。忘れないうちに」
歩きだすと、彼がポケットからきらりと光るものを取り出す。
『?…え!これ!』
「お、やっぱり?駅前の道に落ちてるの、拾っておいたんです。未緒さんのじゃなかったら、駅員さんに渡そうと思って」
この前は違う上着だったから…という彼が渡してくれたのは、パスケースについていたブランドロゴだった。
こんな小さなもの、よく見つけたなぁ……
『わざわざありがとう。またねって、こういうことだったんだね』
「僕もよくこの駅使うんで、いつか会うだろなって…。あ、それ、夜ご飯ですか?」
『あー、うん…。あんまりよくないんだけどね』
彼と同じように、上着のポケットにロゴを入れるときに、ガサガサとコンビニの袋が音を立てた。
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