第16話

『あ、家、そこの青い建物』




「はーい。未緒さんて、いつも遅くに帰るの?」




『あー、うーん…。仕事がある日は、遅いかな。今日みたいに日付超えることは少ないけど…』




「へぇ…大変だね…。何のお仕事してるの?」




『あー…っと、普通の、事務だよ。』




「事務かぁ~。肩こりそう!あ、そうだ。未緒さん甘いもの好き?これ貰い物なんだけど、よかったらどうぞ」




仕事の話題を振られて、少し口ごもったことに気づいたのか、話題が変えてくれた。





ずっと持っててくれた傘を預かると、背負っていたリュックから、小さな紙袋を取り出した。




『クッキー?』




「そうそう。めっちゃ美味しかったから、食べてみてください!あ、それは新品なので!(笑)」




『あはは…ありがとう。甘いもの好きだから嬉しい』




「良かったです。…あ、ここ曲がります?」





ほぼ初対面なのに、話が盛り上がって、気づけばマンションに到着していた。




そして昨日も今日も、何かしら貰ってしまった…




『昨日も今日も、たくさんありがとう。駅までの道わかる?』




「どういたしまして。たぶん大丈夫です。…じゃあ」




もう会うことはないだろうに、引き留めたくなる。




…苦しい。




「…また。」





『え…』





「ふは……。たぶん、また会えますよ」





ぱっと手を挙げて、背を向けて歩き出した。




また会える、なんて、社交辞令みたいなもので、きっと期待しないほうがいい。




初めて話したとは思えない空気感が、不思議だった。








…あ。名前、聞きそびれた……。

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