第14話

『あの…ありがとうございます……昨日も、今日も…』





「え!…あぁ!昨日のお姉さんだ?!」





少し歩いた先の、ビルの屋根の下で立ち止まる。




お礼を言って少し離れると、驚いた様子の彼。





今日もマスクと帽子で、あまり顔は見えない。





でも、声で分かった。





「びっくり。…あれ、ライブって…?」





『あ!行った!あの、チケット代払うね…』





「え、遅くない?こんな時間まで何してたの?」





財布を…とカバンに手をかけると、少し声を荒げる彼。





意外な声に動きを止めてしまった。





『えっと…カフェに寄ってて』





「もう日付変わりますよ。そりゃナンパもされるって」





『ほんとだ…あの、迷惑かけてごめんなさい。お金渡したらすぐ帰るね』





「あー、じゃなくて。すみません。…送ります」





眉を下げた彼が、傘を開く。





『家、すぐそこだから大丈夫!』





「雨降ってるし…また変な人いたら困るから…どうぞ」





『……ありがとう…』





とんっと一瞬背中を押されて、彼の傘の中に入る。





さっきのゼロ距離を、もう一度。なんて思ってしまっている。





…いや、ないないない……!

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