第13話

『…えぇ…聞いてないって……』




カフェを出て、駅が見えて来た頃に降り出した雨。





今日天気予報見てなかった…





冬の雨は冷たく、仕方なく一旦駅構内へ入る。





まっすぐ帰っておけばよかったなぁ…





「お姉さん」





駅に入ったところで突っ立っていたら、昨日心地よく感じた呼び方をされて、思わず振り返ってしまった。





声、全然違うのに…





「傘ないの?俺もー!」





『えっと…?』





「あ、どっかで雨宿りする?すぐそこにカフェあるよ!寒いでしょ?」





全く知らない背の高い男性が陽気に話しかけてきた。





『いえ…あの、帰るので』





「あれ、家近く?」





あ、間違った…





「そんじゃあさー…!」









「もう、待っててって言ったのに」







その瞬間、周りの音が聞こえなくなった。





『………』





「アイス、何味なんだっけ?」





『…ちょ、こ…』





「おっけー。寒いのによく食べれるよねぇ…。あ、てか、知り合い?」





ゼロ距離。




軽く肩を引き寄せられて、シトラスの香りが強くなる。





彼の質問に、全力で首を横に振る。





「じゃ、行こ」





ぐっと肩を寄せられて、一歩彼に近づいた。





「え、ちょっとー?」





「振り返らないで」





男性が後ろから声をかけてきたが、駅から出て傘を広げて、そのまま歩き出す。





…昨日の、彼だ……

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