第6話 栄えある森
ドルイドとは森の祭使である。
森を崇め、災いを鎮め、
循環を守るのが彼らの生きる意味でありすべてである。
だが時代は進み木を伐採し土地を開拓したことで、
文明は開化したが信仰を薄れ、今ではほとんど残ってはいない。
祖霊の街道
「ほ、本当にこんなところ、歩いて大丈夫なんですかね……」
「仕方がないだろう……命令なんだ、ほらさっさと歩け。なんなら手を繋いでやろうか?」
「な、なにを言っているんですか!歩けますよ、まったく!」
「それほど怯えずとも問題ありませんよ。ルミナリアの女騎士殿」
二人の騎士の後ろを歩く大きな獣人。
その手には黄色く光るランタンが握られていた。
無数の例が通りすぎその度に影を生む。
夜は月明かりがあっても足元を照らす光が必要なのである。
「あれは我らが祖霊。悪意などありません、寧ろ死してもなお我らを守ってくださっているのですから敬意こそすれ恐れる必要などありません」
「で、ですが”例の事件”がありましたから、信じられ──」
「あれは!何かの間違いです!我らの祖霊が人に!危害を加えるなど!……し、しつれいした」
「いや構わない。おいナキ。言葉が過ぎるぞ」
「す、すいま──」
女騎士ナキは騎士の位になってなお”おばけ”の類が苦手なのだ。
むしろそれを克服するために、
光属性を専攻しているのだがその結果がこの地への派遣であった。
頼もしい新人、と言われて就いた新人が、
この体たらくなことに頭を悩ませる男性騎士が、ラツキである。
ヒキャー、と金切り声とともに背中を襲う寒気。
3人が同じタイミングで武器を手に取り構えた。
────悪霊が現れたのだ。
悪霊は、人種、亜人種、モンスター関係なく遍く生物の魂を食らう。
「は、ハ、は、ha、はじゃのひ、光よ我を守れ!」
「|命を輝きを見よ!気高き我が悪意を燃やす者なり!《ライオン・ハート》」
「
ラツキ以外は悪霊特攻の魔法を発動した。
「せ、せんぱい!光魔法つかえないんで、ですか!?」
驚くナキは大きな瞳で体と剣に炎を纏うラツキに叫ぶ。
「ああ……だから頼もしい新人がいてくれてうれしいよ……」
せめてもの抵抗に炎魔法を身に纏っていたラツキに対して容赦のない新人の言葉。
舌打ちの一つでもしたいところだが、
この現状で一番ヤバイのが自分であることを自覚しているぶん悪態を飲み込んだ。
「そ、それなら、さっさと、にげm──」
「来ましたよ」
ナキの弱気な本音に被せるように、
ドルイドの獣人兵が叫ぶその目には数体の悪霊が映っていた。
キャアッアー、金切り声は発し半透明のモンスターが襲ってくる。
「あれもあんたらの祖霊だってんなら……襲わないよう説得してくれよ」
「…………」
ラツキの皮肉にドルイド兵が返す間もなく戦闘が開始した……。
……と思っていた。
「キャガーーーーー!!」
悪霊は三人の間を勢いよく通り過ぎた。
「な、なんだ……?」
「……た、たすかったー」
「……どういうことだ」
三者三様の反応。
「ぎゃ、ぎゃああああ!い、いっぱいいるー!」
ナキの叫び声の通り、
悪霊の過ぎ去った跡を追う様に無数の薄黒の影が現れた。
だがその悪霊たちも三人のことなどお構いなしに後ろに過ぎ去っていく。
「何が起こっているんだ」
ラツキの疑問に答えるように闇夜の中から姿を現したのは、
巨躯の黒い馬に乗る鎧を纏う騎士風の者と大きな馬車だった。
「う、うぇ……え!?馬車!」
「おい、しっかりしろ。あの黒い魔力……鬼が出か蛇が出るか」
「どっちもイヤですよ!」
「俺もだよ、ったく構えろ!」
黒い全身鎧が馬を操り馬車の守るように前に出た。
「ルミナリアの騎士……死ね」
柄から刀身まで真っ黒のシャムシールを抜き、
凄まじい殺気を放ったと思えば一瞬のうちにラツキの前に出た。
上から振り下ろされる剣は残像を残しながら迫ってくる。
「はあ!」
下から上に炎を纏う剣が漆黒剣をはじき返した。
「上焔!」
焔の剣技で応戦したラツキはそのまま次の剣技を繰り出す。
「火流の潮」
大きな魔力がそのまま炎へと変換され、
大きな渦を巻き黒鎧に向かって勢いを増した状態で衝突した。
「これは私も少し力を見せる必要があるさね」
ナキはその身を押しつぶすほどの力を感じた。
黒い鎧の言葉が本当であれば死闘になることは必須だ。
わたしも加戦しなければ、と剣を握る手を強める。
「おい!三方から同時攻撃だ、構えろ!」
ラツキの短い言葉をドルイド兵とナキは理解し黒鎧の横を取る。
「はあ!炎身花鳥!」
炎を舞い上がらせ突進した。
そのタイミングに合わせて攻撃を放つ。
「我ら光の中を行く。暗き者を焼き滅ぼしたまえ!」
「祖霊の力、
高出力の光の行進と、霊獣の力を借りた猛進。
「失せるがいい」
黒鎧────グラムは〚改変〛によって[剣聖]という力も変化していた。
[魔]の暴力的な力を剣に乗せるその力は[剣鬼]。
聖堂院でも見せた破壊的な力を、
見事に御し斬撃を振るうその一瞬に乗せた。
「ぐあ……!」
三方同時攻撃はたった一撃に弾き飛ばされ土壁に背中を打ち付ける。
なんという凄まじい魔力……。
しかも肌に刺さるこの感じは魔の者……”俺の天敵”だ。
「これは躊躇っている時間は無いな」
ラツキは腕にある痣に意識を向ける。
それは光を発し体全体に強力な力を授けた。
……できれば使いたくなかったな。
「な、なんですか。先輩、その力……まさか!」
やっぱり気付くか……。
「後で説明する。今は防御魔法を使え!」
「は、はい!」
先ほどまであった実力の差はもう感じない……いけるぞ!。
「
それはとても強烈な光の剣撃。
ナキの操る光属性の魔法でも再現できない別次元の領域。
……まごうことなき勇者の力である。
「くぅぅぅぅ……!」
その攻撃でシャムシールの剣で一身で受け止めるグラムだが、
「ぐあ!」
剣を弾かれ鋭い特攻の斬撃に傷を負う。
このまま……攻める!、とラツキの勝ちの確信。
「どうしたんだ……?」
ラツキもナキも悪霊が怯えて逃げていたのは、
恐るべき黒鎧のせいだと思っていた。
声のする方に誰もが目を向けた。
大きな馬車から現れたのは、
目隠しをした喪中のような黒い修道服を纏う女性。
その彼女は馬車の前部に特別に設えられた扉を開くと、
なかから現れる者への敬服を表すために平伏した。
背筋を冷たい手に撫でられたような気配が襲う。
勇者の力を解放しても感じるほどの圧倒的な存在感。
「なにがあったのかな」
現れたのは白髪の見目麗しい少年。
「も、申し訳ありません、テラス様」
黒鎧も素早く平伏した。
「ルミナリアの犬どもの始末をもう少しお待ちください。すぐに首を二つ並べて見せます」
テラスと呼ばれた少年は、そうか、と頷くとこちらに目線を合わせた。
たったそれだけ……それだけだが五感すべてが危険信号を鳴らした。
「ナキ!」
その言葉だけで意味が伝わったようで、
後輩騎士はすでに大きなスクロールを広げていた。
「
少年たちと自分たちの間にそびえた光の大盾。
「おお!硬いな……これ」
容易く触ってくれるな……!
それはお前たちを弱点特攻を持つエネルギーの盾だぞ……。
ラツキの内心での悪態は聞こえることはなかった。
「ふん……!」
バキバキバキ、大盾にひびが入る。
「ナキ!まだか!」
「もう少し……いけます!」
スクロールが力を発揮し、
ラツキとナキの二人を転送した。
えっ……!?、とドルイド兵がその見事なまでの尻尾切りに、
唖然とした表情を見せる様子のなか、彼に向かって複数の陰が迫った。
────────────────────
「ふぅー……なんとか助かったぁー!」
ヨーミック国ルミナリア騎士舎内部の、
特別緊急転移室にて安心から力が抜けるラツキに対してナキが詰め寄る。
「助かったー、じゃないですよ!せ、せんぱい!なんですか、あれは!」
彼女の伝えたい意味を当然理解しているラツキは頭を掻いた。
「お前の言いたいことは分かってる。でもな……このことは内緒にしてもらえないか?」
「ないしょ、って……そんなことすれば私だって罪に問われるんですよ」
「ああ……それは分かってるが……」
彼女は逡巡する。
自分の利益を考えた場合は
ルミナリアの騎士団に報告するべきなんだろうな……。
でも、先輩を大罪人にしたくない。
「分かりました……”勇者の力”を持つこと。内緒にしますよ」
「でも気を付けてください。私以外でその力を見つけたら……」
「……ああ」
忌々しそうに腕の痣を見つめてラツキはつづける。
「男が”勇者の力”をもつ事をルミナリアにバレれば即刻処刑だろうな……」
「分かってるならいいんです。でもどうしますか?」
「緊急転移した理由は……少し休んでから考えよう」
久しぶりに発動した身に余る力の反動が体に返ってきていたのだ。
あの恐ろしい存在をほのめかしつつ、
”勇者の力”を隠し通せる嘘を考えながら部屋を後にした。
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[蘇生]スキル持ちだと思われ”聖女様”と聖域に呼ばれていましたが、実は[組成]スキルだと発覚して対応が一変しました……しかも俺は男です。 新山田 @newyamada
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