第5話 [魔]
旅に出るとは言ったものの準備する時間が必要だ。
「テラスさま、布教の地はこちらがよろしいかと……」
アナスタシアが指さす地図の場所は、
ルミナリア聖域指定高位聖堂院の西の国ヨーミック。
別名を医療の国といい、
身体を負傷した者や欠損した者が最後の希望として訪れる地である。
目的地をその場所にした理由は、
「医療などより優れた力を持つテラス様が行けば掌握するのに時間は掛からぬでしょう。最近ルミナリアの加護下に置かれたという話も聞きますが、まだ日が浅いこの時こそチャンスかと思われます」
という思惑からだったようだ。
そういうわけで、
18名の修道女を連れて旅をする必要が出てきたので、
さっそく準備をはじめよう。
移動手段として一般的な馬車。
これが3台あるがいずれも4人が限界。
つまり6名が乗れないことになる。
これを解決するために使うのが[組成]である。
〚分別〛によってすべての馬車を解体。
続いて〚改変〛によって、
木材、鋼材、繊維材を一つ一つをその材質以上に〚改変〛する。
最後に〚復元〛を使いただ馬車を戻すのではなく、
再構築することで18人が乗れる大きな馬車へと生まれ変わらせた。
「どうしましょう……これだけ重い馬車では厩舎にいる馬では引くのは厳しいかもしれませんね……」
アナスタシアの言葉に、
たしかに、と厩舎へと足を向ける。
「ヒィ~ヒィ~ン」
白く細い馬が6匹に〚改変〛を使用する。
中間種馬を〚改変〛指定しました。
通常種の性能向上、もしくは[デーモンロード]の影響にて[魔]の生物へと変異させることも可能です。
これは試さずにはいられない……!
変化はすぐに起こった。
細い体躯がみるみると大きく太くなった。
さらには黒い毛並みが燃えるように波を立てるようになった。
存在しない品種に生まれ変わった。
[夜馬]への〚改変〛完了しました。
「おお!これほど逞しいものは見たことはありません!」
その様子を見ていたグラムも、パチパチ、と手を叩き驚いていた。
彼女の背後にいた戦士たち、
〚改変〛によって生まれ変わった者達も同様に拍手する。
「キミはどれに乗りたい?」
「わたしですか……?」
グラムは突然のセリフに眉を上げる。
「キミはこの団の戦士の中でも一番強い。馬に乗って戦うことも多いだろうから」
「な、なるほど……ではこの馬を」
彼女の指さすその先には、
6匹の馬の中でも黒く艶のある毛並みの多くな馬だった。
「フンッ、スッ!」
とうぜん、とでもいう様に鼻を鳴らす。
その様子にグラムも、生意気な、と笑顔で答えていた。
場面は変わって聖堂院の広間にいる。
ここにいる理由は戦士たちの武器をどうにかするためだ。
聖堂院には武器がない。
近衛兵も聖騎士などもいない。
理由はその立地にある。
聖堂院の西には医療の国ヨーミック。
東には聖なる都に通ずる大きな国道があり、
定期的に巡回するルミナリア聖騎士団によってモンスターは排除されている。
その上で魔を退ける”お香”や結界が貼られているなど、
防御が完璧なうえ聖堂院の神官長が剣聖シーメイで事足りているということだ。
ないのなら一から作るしかない……。
鋼鉄製の調理器具、壁に飾られた鉄、銀、金細工品などを集めてもらった。
それを〚分別〛によって皮製品、布品、金属品に分ける。
そして、金属はインゴット化させる。
「まずは……」
鉄のインゴットを使用して〚復元〛を発動し製の剣を作成。
「これは、なかなかでございますな……!」
グラムが褒めてくれた。
いまほかの者達は、
アナスタシア主導の元旅立つ前の準備で忙しい。
だが彼女は僕を身の安全を守るという名目でここにいる。
「貴女も手伝っては……?」
とアナスタシアに言われても、
「貴様は身の回りの世話担当、私は身の回りの安全を守るのが役目さね!」
「ハッ!剣を振り回すだけしか能のない奴は言うことが違いますね……」
一触即発な雰囲気を醸し出してしまったので、
アナスタシアを説得してグラムをここにいてもらっている。
さっそく作成できた武器を持ち感触を確かめる彼女。
その動きはとても華麗でかつ素早く風を切る音を鳴らす。
その間に黙々と作業を進める。
「それは戦士組に渡すモノなのですよね……」
「そうだけど……どうした?」
グラムは作成された武器を眺めながら言葉をつづける。
「その……では、私の武器も作り直していただけませんか?」
差し出されたのは、
シーメイが持っていた奇麗な銀色に輝く湾刀。
「なにか不満があるのか?」
と聞くと、
「い、いえそういうわけでは無いのですが……ほかの者はテラス様が直々に作られた武器を頂けるので……その狡いな、っと、そ、その申し訳ありません。忘れて──」
なんとも歯切れの悪いいい方だがなんとなく気持ちは察した。
「わかった。ではその剣を貸してくれ」
「あ、ありがとうございます!」
湾刀に[組成]の中から〚分別〛を使用する。
[遊隕石鉱]を入手しました。
[蒼星蜥蜴の皮]を入手しました。
[ルーン刻印:星疾]を入手しました。
[ルーン刻印:極当撫]を入手しました。
……よくわからないが凄そうなものに分けられた。
精密機械をバラバラにしたような背徳感と、
どう戻すしていいか分からない焦りに似たような感じに襲われた。
そそくさと〚復元〛を使用した。
〚復元〛情報
通常;[流星のシャムシール]に復元。
変貌:[流星のシャムシール]を[魔]の特性へと変異させることが可能です。
このまま元に戻しても、
グラムは、なにもしていないことに気づいてしまうかもしれない……。
「ええい、ままよ!」
ならここは徹底的に変えてしまおう、と変貌を選択。
〚復元〛〚改変〛完了。
[暗黒流星のシャムシール]に変貌しました。
なにやら禍々しい湾刀が完成した……。
「な、なんと、なんと」
あれ……お気に召さなかったかな……ふむ。
「なんと、美しい剣なのでしょうか!」
グラムはわなわなとしながら剣を手に取ると、
黒く美しく光を反射させる刀身を愛おしそうに撫でている。
柄を握ると彼女の眼が大きく開いた。
「くっふふふ、なんと凄まじい力を放つ剣さね」
剣に向かって不敵な笑みを向けるグラム。
「な、何事ですか!」
広間の扉が勢いよく開くと、
アナスタシア率いる戦士たちが血相変えて現れた。
「それは……?」
その気配からグラムを警戒する彼女に対して、
「安心しろ……この程度御せないわたしでは無いさね。ふんっ!」
大きく振りかぶり素早く剣筋が流れる。
その斬撃は黒い稲妻のように走り広間の大理石の壁を斬り裂いた。
「神よ……」
その言葉に振り向くと、
グラムが剣を横にして片膝をつき掲げていた。
「改めて誓いを。この剣であなたの前を立ち塞がる一切を斬り伏せてみせましょう。どうかわたしに貴方の力の体現者になる事をお許しください」
彼女に捧げられた剣を手に取った。
演劇で見るような誓いをたてた騎士にするように両肩を刀身で触れる。
「ああよろしく頼むよ」
そのあと彼女は、
アナスタシアにこっ酷く怒られた。
「準備が整いました……テラス様」
「それじゃあ向かおうか」
頑強そうな馬車に乗り込み向かうは医療の国ヨーミック。
さて……どうなることやら。
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