第2話 一難去って……
浴場での事件から数日。
「それでは聖女様、本日もお疲れ様でした。ゆっくりとお休みください」
「ありがとうございます。ごきげんよう」
「ここにきて3日で礼儀作法をよく覚えていらっしゃいますね。大変よろしいしゅうございます、それではごきげんよう」
自室から礼儀作法の講師である初老の修道女さんを見送る。
「今日も”スキル試し”の続きをやろう!」
あれから色々と自分に宿るスキルの概要を知るため試してみた。
男児の体を女児の物に変化させてしまった
どうして修道女さんは間違えたのかわからないけど[蘇生]ではない。
だって[蘇生]では……割った花瓶を完全に戻すことは出来ない。
「うおお……こいつは驚きだ!」
無数の破片と化して大きな花瓶を選択肢[復元]を選ぶ。
みるみる破片が集まり逆再生が如く花瓶の姿を取り戻した。
「ほかにも試してみよう!」
与えられた大きな部屋には、
いくつもの飾りものが壁に掛けてあった……。
……それを片っ端から変化させてみる。
[組成]には3つの種類がある。
〚
剣を、鉄のインゴットと木片に。
〚
花を種に、種を花に。
〚
銀製の馬のオブジェを銀のインゴットへ変えて、
それから銀のインゴットと木片を合わせて”銀の剣”を作ってみた。
「おお!なんて奇麗な刃なんだろう……!」
自分の顔がはっきりと分かるほど磨かれた刃、
振り回してみると天上の魔蛍光に照らされキラキラと光る。
それから4日後の明けた昼下がり。
お昼を食べ終わりに庭を散策していると小さな小鳥が傷つき倒れていた。
小鳥に触れると息が絶えていることが分かる。
悲しい気持ちでいるとウィンドウが開く。
[テノヒラ鳥]を〚
え、出来るの!?
って、そういえば性別を変化させることも出来たんだ……。
……それくらい容易いのかもしれない。
折れた翼が復元してやると、
ちゅんちゅんと嬉しそうに起き上がった。
数回手の平で駆けて見せて空に羽ばたいていった。
「これって……つまり」
[蘇生]ではないもののそれらしいことが可能で、
壊れた物を復元したり、作り変えたりできるスキルということになる。
「[蘇生]なんてのより数倍すごいスキルなのでは……!?」
◇ ◇ ◇
それから1ヶ月が経った頃……。
「シーファ様、聖堂神官長さまがお呼びでございます」
シーファとは僕の名前である。
ルミナリア教の信仰する5人の勇者の内の一人。
高位僧侶として”魔王”討伐に向かった女性の名前だそうだ。
「はい、わかりました」
ドアの向こうから声を掛けられ、
馴染みある男児の体から、女児の体に[組成]し部屋を出る。
聖堂神官長──この聖域の最高責任者。
最初にここを訪れた時に会ったきりなんだけどなんのようだろうか……?
修道女さんに連れられ辿り着いた大きく威厳のある扉。
ノックすると「入りなさい」と声が返ってきた。
開かれた扉の先は蔵書がたくさん並べられていた部屋がある。
その奥で書斎机に腰かけている老婆がいた。
「よく来たね」
手招きされて中に入ると勢いよく後ろの扉が閉じる音が響いた。
「え?」
それほど急いで閉める必要があったのかと驚いていると、
高位神官長から声を掛けられた。
「さて……そこに座ってくれるかい」
彼女に促されるままに向かい合う形で椅子に腰かけると、
タイミング良く高位神官長は話はじめた。
「まずは……呼んできてもらえるかい?」
近くにいた修道女さんはそそくさと奥の扉の中に消えた。
「やめてっ!いだ…い、放してくださ…いっ!」
悲痛な叫びとともに連れてこられたのは、
緑色の髪をしたボロボロの修道女さんだった。
「この子を覚えているかな?」
神官長の眼がギロリを向けられる。
「え、えっと……」
あっ!たしか鑑定の儀に来ていた……、
「……神官さんです」
「そうだよ。この子がね、おかしなことを言うんだよ」
「?」
「あんたがね……男だってさ、どうなんだい?」
「!」
「ほんとうです、ほんとうなのです、高位神官長様!」
「うるさいよ……黙らせなさいな」
するどい声音に雰囲気が張り詰め、
素早く慣れた手つきで修道女さんたちが動き出す。
「う!……ん!ん!んnn」
神官さんは猿轡を噛まされ喋れなくされた。
「さて、状況を飲み込めていない様子だね。仕方ない……事実を確かめるまえに、少しだけ説明をするかね」
曰く、聖なる都ルミナリアにて、
伝説の僧侶シーファを讃える賛美祭の最中に喧嘩が起きた。
怪我人多数、死傷者も複数でたほどの大騒ぎになり、
そのさなか、天より一筋の光を差し舞い降りた幼女が、
[蘇生]さらに、[治癒]を使い場を納めたとのことだった。
「それが本物の[聖女]であったことは自明の理さね。さて……」
なにやら紙の束を掲げこちらに題名が分かるように向けられた。
そこに書いてあったのは、
「これは”ルミナリア情報機関による聖女調査書”でね」
総本山──聖なる都ルミナリア。
一連の出来事を総洗いするため情報部が派遣され、
発覚したのが僕が”聖域”に来る前は”男児”であったという情報。
その詳細がまとめられた資料であった。
「ここには”いままで[蘇生]スキルを持ってうまれた者に男はいない。よって男児であったことが真実であれば聖女の権利を不正に入手するために偽ったと推測される以上”さてと、どうするかね……今なら白状するなら聖域侵犯の罪だけ済むがこのまま偽るなら……」
「ま、まってください、ほらこの通り!ぼ、わたしは”女”です!」
証明する方法は一つしかない。
服をたくし上げ”無い”ことを見せる。
いまは羞恥心は放り投げる。
いや実際には”男性”であるが”聖域侵犯の罪”がなにかわからない以上、
ここは”女児”であると訴える以外道は無い!
「……まあ、見たところそうだね。服を下ろしな、でも残念だが世の中には”幻術魔法”ってのが存在している以上それじゃあ説明としては足りていないのさ。証明するには……」
「ゴクッ……!」
緊張の時間、喉の鳴る音すら聞こえる一瞬の静けさが流れる。
「”審判”を行うしかないね……」
「”しんぱん”ってのはどういうことをするのでしょうか?」
「神域浄化された偽りが存在できない場所で7日間”証明”し続けることさ。まあ行けばわかるさね」
高位神官長が手をかざすと、
僕の後ろにいた修道女たちが動き出したのがわかった。
どうする……。
このままだと何をされるか分からない。
[組成]を使えば脱出できるかもしれないけど、
それは他者への危害を加えることになるかも……。
結果、逃げ切れなければもっと悪い状況になることは想像に難くない。
「いたっ……!」
グッ、っと強く腕を掴まれた。
抵抗しようにも腕を固められ痛みを感じて抵抗できない。
ウィンドウ画面が表示される。
修道女Aを〚
手が触れたからだろうか、
修道女さんが[組成]の対象になった。
「!!」
自分に危害を加えられかねない状況、
いや確実になにか良からぬ事が待っている以上はそれが唯一の道に思える。
覚悟を!──。
「ん!」
手が震える、これが痛みが原因で無いことは分かってる。
これが、十数年何の気なしに生きてきた結果。
──ダメだ。修道女さんがどうなるか分からない以上、
命を奪うかもしれない行動は流石に気が引ける……クソ、
しょうがないだろ!だって命を奪うなって経験した事なんてないんだぞ!
そのまま、神官と一緒に奥の扉の中に連れていかれることとなった。
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