第61話
でも、それでもさ。
あの頃に比べたらそんな事どうだっていいよ。
自分を慕ってくれる友人がいて、素性を隠しているけどドラムも叩けて、ステージにも立てている。
ほら、こんな幸せな事ないじゃんって思うのに、どこか息苦しさも感じていた。
こんなに充実して、幸せな日々も過ごせてるけど、何が不満なんだろう?
あああ・・・・。
やっぱり、私はどこかこの状況に満足していないんだ。
私のドラムはにわかに知名度が上がっていき、人気が出ているようだった。
ライブが終わったあと、自分の評価が直接耳に入るようにもなっていた。
そのほとんどが好感がいいもので、どんな人が叩いてるんだろうなって近くで聴くこともしばしば。
『わたしです。さっきまであのステージで叩いてたのは、私なんですよ』
言いたいのに言えないジレンマが私を窮屈にしていく。
友達にだって
『穂谷と仲がいいのは私とバンドを組んでたからだよ。わたし、本当はドラム叩けるんだ』
心の奥底ではそんなことをバラしてしまいたいって思う。
”え~!!本当に?!すっごいじゃ~ん!”
たぶん私はそんな薄っぺらい言葉が欲しいだけなんだ。
でも、違う反応だったら怖いと感じてしまうチキンな私。
あああ・・・私は
エゴの塊だ。
自分を自慢したくてしょうがない。
そうして、自分の不安に思う気持ちを安定させたいと願ってしまう。
こんなの、プロを目指す人として良くない気がする。
こんなの、盲目的じゃないか。
ミヲにさんざん言われてきたっていうのに、これが出来るから他は頑張らなくてもいいかと思い始めてる自分がいる。
本心でドラムが好きだった私はどこに行ってしまったんだろう?
偽れば偽るほど、そんな気持ちが大きくなっていった。
そんな日々を悶々と過ごしてた時だったんだ。
思わぬ人と”再会”したのは。
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