第56話

「ちょ‥なに?偶然?」


「いやいや、ミナ。そんな訳ないっしょ」


「そ・・うだよね」


穂谷の言葉に受け答えするも、いまいちよくわかっていない私。


なんと例のシェアハウスに泊っていたのは、穂谷と賢人だったんだ。


発覚したのは私が、夕飯を持っていくと出しゃばったせい。


だって、ねえ・・・。何となく親も疲れてそうだったし、私だったらピンポンして置いてくるだけっていうのも許される気がした。


大人だったらそうはいかないでしょ?



「さすが、ミナの出生の場所だよね。バンド小屋あんじゃん。思わず見に行って地元民と交流したわ」

嬉しそうに話す穂谷。



ああ、通りで・・・。


昨日の夕方に聞こえてきた音は、幻聴ではなく、きっとこいつらが奏でていたんだ。



でも・・・何しにこんなところへ来たんだろうかと思う。



「じゃあ・・・これ、今日の晩御飯の魚の煮つけとオヒョウのルイベと冷おでん。口に合わなかったらレトルトが戸棚や冷蔵庫にあるから。では、ごゆっくり」


「・・・ちょっとまって。話したいことあるから来たんだって」


「・・・そりゃ、ご足労さんでした。こんな秘境にまで来る羽目になって」



・・・もしかして、ペダル粉々事件が発覚したんじゃないかって、ハラハラはしたまま会話を続けた。


風除室は暑いから玄関先で話を進める。



穂谷は後ろの方で壁に背中を預けたまま、横目で私と賢人をチラ見しつつも、聞いているだけで何も話そうとしなかった。



「ラストライブは散々だった」


「・・・そう。だから何?責めに来たの?」


「・・・確かに憎たらしかったけど、よくよく考えたら変なことばかりなんだ」


「どこが?」


「いや、変だろ?どう考えたって」



そうか、様子が変だったことは気がついてくれたんだ――――だいぶ遅いけど。


でも、なんか・・・賢人らしくて笑える。


「んで、一方的なこと聞いても分かんねーし?それだったらお前に会いにいけばイイって思ってよ。―――したら、お前いねーんだもん」


「だからってここに来たの?」


「・・・スッキリしなくて気持ち悪いんだよ」


「どの辺が?スッキリしないわけ?」


「・・・・・・」



あのひとは私を悪だって信じ込ませたと言っていた。だから賢人にチクっても無駄だとも。



その、悪の部分がよく分らないままなのは私もスッキリしない。

いったいわたしはどういう類の悪になっているんだろうか?

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