第55話

「いや~ね、二人とも朝からピリピリしちゃって~。さあ、ミナ?ここは男二人に任せて朝ごはん作ろうよ。あ、お母さんミナの淹れたコーヒー飲みたいな~。っさ、早く、行こ行こ」


そんな時、場を和ませてくれるのはお母さんで—――。


お母さんの発言に二人はハッとしたように元に戻って、ズルいぞとか言いながらブーブー文句たれていた。



家に帰りご希望のコーヒーを淹れる。

お母さんは紅茶の方がいいと思い、用意しようとしたけどコーヒーがいいってきかなかった。


苦手なくせに・・・。わたしを気遣ってくれてるんだな。



「ごめんね、お母さん」

「いやだ、なに謝ってるの?」

「いや、なんか・・・」


私が帰ったせいで、なんとなく気苦労が増えたように見えてしまった。


「あの二人のことは気にすることないよ。同い年だし、船の上でも小競り合いしながら昆布採ってるらしいから。昔からそうなのよ」


「そうなの?」


「うん、だからいつもの事。今年も変わらずに平和な会話だった。喧嘩するくらい元気なんだな~って思ったよ?」



そうなのかな?どこか違う風に見えたのは私だけ?



「あ~おいし!やっぱりミナが淹れてくれるコーヒーは最高だわ」


そう言いながら朝ご飯を作るためにテキパキと動こうとするお母さん。


「あ、卵焼きでもしたらいいかと思ったのに、卵なかった・・・。げげ~味噌も切れてるし…みそ汁で誤魔化すことも出来ないじゃん~」


お母さんはしっかりしてそうで少し抜けているところがあるから、あれこれブツブツ言いながら奮闘している姿が可愛く見えてしまう。



元気がない私を見越してワザとやっているようにも見えたけど、やっぱりこの人の子供に生まれてきて良かったなって思えるんだ。



すごく心が落ち着ける。



本音とかは見えないけど、髪色も同じだし顔つきも何となく似ているから、親子だって思えるし。



「今日、行けたら私一人で行くよ」

「ええ?もし行けなかったらでいいよ。もし何かがあって頼むにしても、玄関先にポンって置くだけでいいからね?」


「うん。でも大丈夫だよ。哩桜りを直伝の蹴りがあるから」


「過信は禁物だからね。札幌に行っても忘れないでよ?」


「はいはい、分かりました」



心配してくれる人がいるっていうのは幸せなことで、辛くなった時こそ、それを胸に抱いて乗り越えていけた。


だから、お母さんの愛情があれば何でもできる気がしていた。

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