第54話
「おはよう!ミナ」
「おお~早いな~」
朝起きてみれば家には誰もいなく、カランコロンと木の棒を転がす音が響く乾燥倉庫へと向かった。
「・・おはよ」
昨日の憂鬱が馬鹿に思えるぐらい、二人はいつも通りやわらかい笑顔を向けてくれた。
「おはよう、みなちゃん」
「あ、おじさんおはようございます」
昂おじさんは少しだけ頷くけど、変わらない表情で乾燥しあがった昆布を木の棒から外していった。
「昨日から来てんだろ?」
「うん、若い男二人だって」
「大学生か?」
「ううん、高校生らしいわ」
「へぇ~…金持ちなのかね。俺らの高校時代が不憫に思えるよな」
「アハハ、そうだよな」
昂おじさんとお父さんはゲストハウスに泊ってるお客さんの話をしていた。
内容は食事のことに変わっていき、ついでみたいに、”もし行けなかったら持ってってな”と、軽く言われる。
どこも・・・どこにも変なところはないんだと思う。
けれど、私は朝日の中に居るっていうのに、なんだか悲しい気持ちになってしまった。
昨晩、あんなに悲しくなってしまったのは、夜の闇のせいだと思っていたから。
「―――――若い男二人のところに、娘を一人で行かせるのは違うだろ?」
思わずそう言ってくれた声の主の方を見る。
わたしの見せない心情を察したようにお父さんを咎めてくれたのは、昂おじさんだった。
「え?大丈夫だろ。ミナには強力なキックがあるから」
おどけて言うお父さん。
冗談っぽくいうのがまた何とも言えないくらいに悲しくなってしまう。
「ミナは空手習ってたし、大丈夫だって」
「・・・・・・・・・・・」
昂おじさんは怒ったように怖い顔をして、お父さんを睨んでいた。
お父さんは背中を向けてずんずんと仕事をこなしていく。
それを見て止まったままだった昂おじさんも手を動かしながら話を進める。
「習ってても、素人に使える訳ないだろ?この子にそんな勇気あると思ってるの?」
「・・・なんだよ、昂。怒るなよ。行ってもらうって決まった訳じゃないんだ、親父の容体が悪くなったらっていう、”もしも”話だから」
怒るなよとか言いながらも、お父さんも怒ったように睨み返してる。
何が起こっているのかが分からなくて、顔をあげることが出来なくなってしまった。
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