第52話

車に乗って発進すれば、ちょうど昂おじさんが家へと入って行くところだった。


まあ・・・いいか。


明日になったらまた会うんだし。




車内は熱気でムンムンしていた。


いくら涼しいと言われる北海道東部でも、暑い日には30度を超え、それなりに熱くなる日もある。


今日もそこまでは行かなくとも、道産子には厳しい一日だった。



手動のハンドルをクルクルと回し、車内の熱気を逃がす。



途端に神社近くで鳴ってるバンドの音が耳に入ってきた。


ここでは珍しいことではない。何代にもわたって練習場所が引き継がれているんだ。


私のお父さんは、実はこの村出身ではないんだけど、お父さんが初めて来たときから建物は違えどあったらしい。




「そう言えば・・・。こっちに来てからミナはドラム叩いてないな」


「置いてきたよ、だって受験勉強しないと」


「そればっかりしてたって格別に良くなるわけじゃないんだよ?息抜きや気分転換も必要だ」


「ご心配いりません。昆布作業で頭の休憩は取れてますから」


「まぁった、そんな嬉しい事言う。褒めてもなんも出ないからな」


「褒めてませんけど?」


楽器に疎いお母さんだったらまだしも、お父さんには新しく新調したとすぐにばれるだろう。


そうして不信がるはずだ、あんなに執着していたのにって。


本当はペダルを壊されてー・・・なんて言える訳ないし、上手く誤魔化せる自信もないから置いてきた。



だからここは受験に真っ直ぐに立ち向かうってことにしておく。



「なんだよ、セッション出来るの楽しみにしてたのに」


「別にアコースティックドラムじゃなくてもいいじゃない。カホンとマンドリンでやろうよ」


「んまあ・・・それでもいいか」


私はお父さんが奏でるマンドリンの音色が好きだった。

あまり得意じゃないからアコギの方がいいって言われるけど。


「マンドリンは曲調が限定されちゃうから、いつもの歌ばかりになっちゃうよ?」


「それでもいいよ。私、ケルト調の曲好きだし。なんか、心が落ち着くんだよね。わたしにもスコティッシュの血が混じってるからかな?」


「・・・うん、そうだな」




この手の話をお父さんにすると少し悲しそうに顔色が曇るのを小さな頃から知っている。


訳を聞くのがなんだか怖いから、詳しく聞いたことがないけど。



でも、なんとなく…。


私に話しづらいことがあるんだろうなって、勘づいてはいるんだ。

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