心落ち着ける場所
第50話
夏休みに入ってすぐに実家へ帰った。
帰った途端、家業の手伝いや夏期講習通いで忙しくなる。
両親もバタバタとしてて忙しそうだったのに、あまりにも落ち込んだ表情を隠しきれずにいたんだろう。
お父さんに気づかれてしまった。
「なんだよミナ。元気がないな~。―――ああ、さては、ミヲが海外転勤になっちまったから寂しいんだろう?」
「・・・そんな事じゃないもん」
「大丈夫だよ、三年すれば帰ってくるから」
「だから、そうじゃないってば」
「あはは、分かった分かった」
村の小さな漁港で明日の支度をしにきたお父さんにくっついてきた私。
お父さんが作業している船のそばで、釣竿を垂らして”落とし釣り”をしていた。
「やあ、みなちゃん。お疲れさま」
「あ、
お母さんのお兄ちゃんである
定年を迎えてからここの実家に帰ってきた昂おじさん。
噂によればかなりの一流企業に勤めていたらしい。
退職金もたんまりと出てお金に困ってなさそうなのに、なぜかお父さんの船に乗って手伝いをしている。
きっと、海が好きなんだろうと思う。
私はこのおじさんがどこか苦手だった。
何となく、冷たい?っていうか…。
会話も続かないし。
お父さんはいつもニコニコしているから永遠の陽の存在だけど、昂おじさんは対極する陰の雰囲気に近い。
感情とかがないように、いつも表情が変わらないんだよね。
だから、どこか苦手に思えてしまう。
「わわ、釣れた、お父さん!」
「大丈夫、そのままリール巻け」
「そんなこといっても~」
つり慣れしてない私は、ぐぐぐっと下に引っ張られる感覚に負けそうになる。
「・・・つっめたいな、娘が困ってるのに」
そう言って後ろから私を覆い、一緒に釣竿を持ってくれた。
「竿を下に向けてね、暴れるときはそのままにさせて、弱まってきたときにリールを巻くんだよ?」
「う、うん。やってみるけど…ううう・・・竿持ってかれるぅ」
「あはは、多分この引きならカジカだと思うから、負けないように頑張れ。持久戦になるからね」
お父さんより大きい昂おじさん。
声は私の頭上から聞こえてくる。
苦手な人のはずなのに、優しいから妙に心地よくなる。
何だか、不思議な感じ。
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