第49話
「気に入らなかったらごめん。いろいろ迷惑かけたから、そのお詫びです」
ということにしてほしい。
本当は、あの女から貰ったお金を使いたくなかっただけだけど‥。
「・・・・・・・・・」
賢人はなぜが顔を歪めて私とそのオーバードライブを交互に見ていた。
ああ、ごめん。ヘンな優しさ見せたら戸惑うよね?
そのまま冷たい冷徹女のままバイバイしてあげればよかったって後悔しながらその店を出る。
バイバイ、賢人。
あんたと一緒に立てたステージは、臆病だった私を少しだけ強くしてくれたよ?
いろいろと感じることもいっぱいあって勉強になりました。
もうちょっとだけでも後ろからあなたを支えたかったけど、不甲斐なくてごめんね?
でもさ、賢人?
別にあんたに惚れてたわけじゃないんだけど、もうちょっとわたしの味方もして欲しかったよ。
あの女のことを丸ごと信じるんじゃなくて、少しは私のことも信じて欲しかった。
あの地方ライブで本番前に伝えた言葉に、嘘は何一つなかったのにさ。
あんたらをカッコ悪いだなんて思ったことだなんて、一度もなかった。
私とあんた達には、バンドの絆がしっかりとあったと思っていたのにさ。
だけど、くだらない恋だの愛だのに負けちゃうだなんてね。
そんな悲しい結末に溜め息しか出てこないよ。
「あ~あ…うまくいかないなー…」
私は音楽を通じて人と何かを作っていきたいだけなのに。
簡単そうに思えるのに、色々な人の感情に邪魔をされてそれが難しいって分かってしまった夕暮れ時。
あのペダルを失ったことで泣いていた自分はもう居ないけど、自分が目指すところは遥か遠い空の上にあるんだなって思えて切なくなった。
まだ私はプロに目指す人として、器量も柔軟さも何も無いなって反省する。
気に入った物に執着している時点で失格だよね。
目指すところは何が起こるか分からない修羅の世界なのに、色んなトラブルを前もって考えて練習してこれなかった自分への罰だと思う。
これを機にまた一つ大きくなってやるんだって思うけど、まだ土俵にも上がれていない気がして落ち込む。
プロになるっていうのは、気持ちや気合だけでなれる物ではないんだな。
もちろん好きの延長線でもない。
好きなものを仕事にするってことは、冷静に自分が置かれてる状況を分析して、最悪なことに立ち向かう心構えが必要だって身にしみてわかった気がした。
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