第48話

「ムリ」

「なんで?」

「受験あるし」

「今度やるおれらの引退ライブだけでいいんだって」

「ああ、なおさらムリ。夏休み中にやるやつだよね?実家に帰って昆布やるし」

「昆布って・・・」

「なに?親はそれで稼いで私を大学に入れてくれるの。だから少し貢献したいの。悪いけど」


それに、お父さんが春休みに帰らなかったから落ち込んでるって聞いたから、夏期講習も地元の塾に申し込んだんだ。

そういうのもあって後に引けないんだ。


もう話すこともないだろうし、セットのハンバーガーも置いて帰ろうとした時だった。


「つめて―女。やっぱあいつの言う通りだな」

「―――あいつって?」

「俺の彼女。場慣れしてない俺らを、陰でカッコわりぃみたいに言ってたんだって?だから離れていったんだろ?」



私は、あの女によって、そんな酷い人になっていたのか。

そりゃ仕方なく別な人を探す―――とかになるよね。

自分を影で見下している奴となんかステージに立ちたくないって思うのは当たり前のことだ。



「そうだよ。だから脱退したの」


そういうことにしとく。


だって、いまあの女のことを”彼女”って言ったよね?

ってことは、何とか復活したんだろうから。


自分の彼女が、不潔そうな男を従わせて実はあんなことをしていた・・・・とか。


そんなことを賢人に知らせるのは酷な話だ。


だから、それに繋がっちゃう話を何とか隠さなくちゃいけない。


”なんで?前のペダルは?あんなに大切にしてたべ”って聞かれて、あんたの彼女がプレス機でぐちゃぐちゃに―――なんてのは言えない。



それに、あんたの彼女には怪しいセフレっぽい男もいるよとかも可哀そうで言えない。



私はどちらにせよ、受験が終わるまでステージに立つ気などないのだから、酷い女のままでいい。




「ひっでぇ・・・。お前ってそんな酷い奴なんだな」


「―――…うん、そうなの。ごめんね――――あ、そうだ、これ」


「あ?」



かばんからゴソゴソと出したエフェクターを賢人に渡した。


機会があったら渡せるようにって思って、リュックの中に入れっぱなしにしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る