第42話

最悪な状況に置かれて、更なる災害が私を襲う。



イジメや嫌がらせだけで事態が済んでくれればよかったのに、どんどんと状況は悪くなっていった。



「ごめん、私このバンド抜けるわ」



私はこう言うしかなかった。



「はあ!?ふっざけんなよ、てめえ!本番明後日だぞ?!二回連チャンで練習サボるしよ!」


賢人は案の定怒っていた。

穂谷や悟も口には出さないけど、怒った表情をしている。



「ごめん、ともかくもう叩けないから」


それだけ言って、目的だった物をケースに仕舞い、その場を後にする。



賢人だけがギャーギャー騒いでたけど、知らないフリして部室を出た。



早く外に出たくて足早に玄関へと向かう。




「どういうこと?」



後ろから聞こえる悟の声。

走ってきたのか、息が弾んでいた。



「もう叩けないの」


「叩けないって・・・」


私は間違ったことは言っていない。


もう叩けない。少なくとも明後日のステージはムリ。



「――――変な噂たってるけどさ、あいつらのことなんて気にしないばいいじゃん」


「・・・そう言う事じゃないんだよ」


「じゃあさ、どういうことなんだよ?」



理由は悟に言いたくなかった。



「どういう理由があって今度のライブをけるの?お前ってそんなに責任感とかないやつだっけ?」


「・・・・・・・・・・・・」


「お前が普段語ってるバンド道ってそんなもんなの?それでよくプロになりたいとかほざけるよな」


「・・・・・・」



本当だ。本当にそうだよね。


こんなんじゃプロになる資格も器量もないよ。


悟が言っていることは間違いがなかった。



「ごめん、ともかくもう無理だから。新しい人と頑張って」



せっかく追いかけてきてくれた戦友に、私は冷たくあしらってその場を去った。



家までの帰り道。

どんな風に帰って来たかは曖昧のまま家につく。


曖昧だけど、春を感じるような暖かさはあったはずだけど、わたしの心は真冬のように冷え切ったままだった。




「おかえりぃ・・・あれえ?元気ないわね?」


「・・・うん、ちょっとね」


「まあ、可愛そうに・・・」



眉を寄せるおばあちゃんは、私に駆け寄りあることに気がつき声を上げる。



「…あれえ?もう一つ、どうしたの?」


やっぱりおばあちゃんだ。わたしの変化にいち早く気がついた。


右手にはスネアが入ったスネアケース。

左手はカラのまま。


いつもなら、ばあちゃん特製の布袋に仕舞ったペダルがあるはずだった。



「うん、部屋にちゃんとあるよ」


「そうかい、よかった。みなちゃんのだいじだいじだもんね?」


私が小さな子供になったみたいに声をかけてくれるおばあちゃん。


ふざけたようにウフフと笑って台所へと行き、私が好きな鶏手羽の煮物を作ってくれていた。



部屋に入り、おばあちゃんの優しさが心に入ってきて涙が頬を伝う。


それと同時に、これを守れなかった自分が情けなく思えてしまった。



「先輩・・・ごめんなさい」



呟きながら、悪意に満ちた手によって壊されてしまったペダルを撫ぜた。

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