第41話

そんな中でも、練習は毎日あった。それは本当に有難かった。



賢人は怪しいけど、穂谷や悟は自分の味方だと思っていた。


それだけ海生がしてくれたことが彼らの中に残っているんだと、頭では分かっている。


厳しい時もあるし本気で泣かされることもあるけど、頑張った分褒めてくれて、落ち込みすぎないように言葉を選んで、私をいい方へと導いてくれる自慢の兄なんだ。



そんな兄を汚されて、汚名返上できない自分の弱さを悔いていた。




今日は学校の部室で練習。

早くいきたいのに、教室の掃除当番は私一人だけなのもあって、遅くなってしまった。



「お前さあ、ミナの事好きだったべ?いいのかよ、兄様としちゃってるままで」



一枚のドアを隔ててそんな会話が聞こえてきた。


その声は穂谷のもので間違いがない。


「・・・べつに、好きじゃねーし。・・・あんな奴」って否定している悟。


何故かそれを聞いて心が痛くなる。

“アンナヤツ”って言葉の中に、私への嫌悪感が含まれている気がした。




「なあ、賢人。次のドラム決まってるの?」


「――――うっせーな、今探してる。・・・次のステージは間に合わないから仕方ないけど・・・」



元々、私はこのバンドの正式なドラマーではない。


前の男の子があまりにも練習しなさすぎたので、一人でスタジオに入ってた私を賢人に見つかり、評価されて入った形だった。




だから、次のドラマーを探しているのは不思議なことではないし、私も分かっていたことでもあった。



”仕方ないけど”その言葉が引っ掛かる。


仕方ないんだ?

私は仕方ないから今度のライブにも出られることになったんだ?

そこそこ叩ける人が見つかったら、私の高校生活最後のステージは、簡単に奪われてしまうんだ?



・・・彼女になにを吹き込まれたかは知らんけど、仮にもお前ら全員さぁ、海生に世話になっただろうが。


どうして2、3日でそんな基本的な恩も忘れて妹の私をないがしろにするんだよ。



――――って・・・・兄の善意行為に乗っかる私も大概だ。


まるで自分がよくしてやったみたいに思ってしまう自分にいたたまれなくなってその場を離れた。



むしゃくしゃした時は、気持ちを落ち着かせるために好きなことを思いっきりやりたくなる。


でも、自前のスネアやペダルは部室に置いたまま。



仕方なしにスタジオ備え付けのものを使うけど、自分の身体に合っていないそれの調整に多くの時間を割き、結局もやもやの気持ちが消えないままタイムオーバーになってしまった。

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