折れてしまった信念
第40話
初めての地方にしては手ごたえが良かった遠征ライブを終えた後。
学年末のテストもクリアして、三年生になれる目途がついてたのもあって、心置きなく定期演奏会へ向けて取り組んでた。
わたしにとっては高校最後のステージになるから、気合も入っていた。
私は心が弾む思いで合わせ練習をしてたけど、メンバーには微妙な空気が流れている気がした。
その中でも、なぜか賢人の機嫌が悪い。
彼女と喧嘩でもしたんだろうか?
でも、猫の皮をかぶったような女の子と喧嘩に発展することがあるだろうか?
まあ、どちらにせよ、貴重な練習時間に私情を持ち込まないでくれって思う。
感情突起が多い賢人にそれを求めるのは酷かもしれないけど…。
少なくても私は、この間の地方ライブ勢いに乗ったまま、そのステージに立てると思ってた。
何よりバンド間の絆はより深くなったと思うし。
でも、問題のある出来事の始まりは、そこではなかった。
登校しているだけなのに、なんだかクスクスと笑われている気がした。
ライブ後にやっかまれることはあったけど、今回は違う感じがする。
どこか、私を好奇な目で見ているというか、汚い物でも見るように顔を
理由が分からないものほど怖いものはない。
でも、その理由はすぐに分かることとなった。
私は何故か、賢人に気があって彼女の悪口を言いまわっているってことになっているらしかった。
・・・・ちょっと待ってよ。
私には言いまわる友達が居ないのだけれど?
そんな弁解も出来るはずもなく、噂だけが一人歩きしていく。
そうして事態は思わぬ方向へと進みだした。
私が教室に入ると騒がしかったはずの空間シーンとが静まりかえる。
「?」と思ったのもつかの間。
黒板には、大きく絵が描かれていた。
それは間違いなく海生と私で、車の中で手を繋ぎ合ってる私たちが描かれていた。
『カッコいいイケメンだけど、実の妹に手を出すロリコン変態、サイコ、ヤバい奴』
『バカ女← 兄に処女捧げたイタイ奴だから気をつけろ。
ご丁寧に紹介書きまでされていた。
怒りがこみあげてきて手が震える。随分と大掛かりな嫌がらせをしてくるものだと腹立たしかった。
黒板けしを持って消そうと思ったけど、なんだかバカにされたように笑われるから辞めた。
・・・こうゆうのを、そのままにした状態で先生を迎えたら、廊下から見ている本人たちはどうんな反応をするんだろうって気にもなったし。
でも、私の行動にリアクションするのは彼女らではなく、クラスの人達。
「ちょ、何で辞めちゃうの?」
「消しなよ、飯塚さん」
「・・・・・・・なんで?なんで私が消すの?」
「なんでって・・・」
本人たちは廊下からニヤニヤしながら見ている。
だから一層の事、自分で消したくはなかった。
もっと焦って欲しかったのに、あいつら本当にクズだなって思う。
”おい、もうそろそろ先生くるってー”
”俺らのせいになっちゃうべや~”
”自分のこと書かれているんだから、消せよぉ~”
”やー、ほんとだって”
”なんか腹立ってきた。なんで動かないの?”
そんな類の言葉をあびればなお一層の事。
私の身体は机から離れることは出来なかった。
結局、チャイムが鳴って先生が来る前に、日直の男の子が嫌々消していた。
その日から、ただの空気だったはずの私は、特定の人らからの嫌がらせを堂々と受けても見て見ぬふりをされる対象になってしまった。
どこまで彼女たちが言い張っている噂を信じているかは分からない。
けど、どこかに”イジメられる方にも問題がある”とばかりに、冷たい視線で見られることが多くなっていったんだ。
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