第37話

ステージから見る光景も好きだし、叩くことも好きだけど、こうやって音響環境が整った場所で聴くのも好き。


重低音がお腹に来る感じが溜まらないし、目に見えない音圧がビリビリと全身を掠めていくこの瞬間が好きなんだ。



大きな音なのに耳が痛くなることはなくて、最高のPAさんのもと、最強に倍音された音がステージから繰り出される。



それに演奏する側と観てる側の熱が交われば、こんなに最高に過ごせる時間はない。



特にいいバンドを発見して、気分が高まってステージに近い場所へと飛び込もうとした時、グンと何かに掴まり前に行けなくなった。


後ろを見ればお兄様が、眉間に皺を寄せて私の首根っこを掴まえるようにTシャツを握っている。


「・・・・・・・・・」

そして”いけません”と言ってるかのような静かな顔の横ふり。


「ぶ~」


せめてもの抵抗とばかりに頬を膨らませたら、少しだけ笑っていた。



もう、そんな優しい顔したって、止められて気分が下がったし、さっきの高揚感は戻ってきませんから。



ツンと顔を背けたら、海生がしゃがみ込む。


あ、やばい!・・・と思った時にはもう遅く・・・。



私は屈強な兄によって肩車されていた。



「ちょ!ちょっと!恥ずかしいってば!やめてよ!」


聞えてるかどうか分からないけど、ふわふわなダークブロンド髪をわしゃわしゃとしたり、叩いたりしてみたけど降ろしてはくれず・・・・。


曲に合わせて揺らす始末。



「きゃあ~!ちょっと!」


超ハズイ・・・・。いつの間にやら帰って来た賢人はお腹抱えて笑ってるし・・・。


まわりの人も面白がって指さされて、最後にはボーカルの人が私に向かってピックを投げてきた。


「わわ・・」


それを狙っていた子たちに海生は押されたけど、さすがは一度漁師を志した者。


グッと堪えつつも、ピックが飛んだ方向へと足を出し、私がキャッチしやすいようにしてくれた。



「アハハ、ナイス!」


「ナイスじゃないよ!もういい加減おろして!――」


”バカ兄”・・・ってつけたかったけど、刑期が長くなりそうだったから、お口を閉ざして慎んだ。

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