第35話

ステージ袖でその時を待つ。


この時の緊張感がたまらない。


手には汗をかき、心臓も早く鼓動を打つからアドレナリンがでているのか、手が微妙に震えるんだ。


足裏にも心臓があるんじゃないかってくらい脈を打つから、地に足のついた感覚がなくふわふわとしている。



あんなに練習したというのに、セットリストを忘れるくらい何度も確認して流れを確認する。


でも、ステージに上がっちゃえばそんな事はどこかへとんでしまうんだ。



自分たちが用意したSEが流れ、狭くて暗い中をすり抜けるようにしてドラムチェアに腰をおろす。


そうすればもう一人の自分が、上から冷静に見ているような状況になって、手違いなく準備を進めていく。



微調整も終わって観客をひとなめしたとき。私は底知れぬほど挑戦的な気持ちになるんだ。



女だからってなめられたくない。今まで見たことないようなものを、この人らに見せつけてやるんだって。


そうやって大きく息を吸い込めば、からだの芯から武者震いが起きる。


自分を知らない人たちにの前で演奏するとき、いつもその目が変わっていくのを感じていた。



今日もその光景が見えるかも知れない。

そう考えればワクワクした。


緊張から興奮に変わった鼓動。



そのハイになった気持ちごと、アクエリアンにぶつける。


ダイレクトにメンバーの音を吸収し、それに自分の音を重ねて吐き出していく直感に支配されていた。



記憶は飛び飛び。自分は呼吸しているのかもあやふやな状況。


全身の筋肉に血がまわるのに必死で、頭は通常通りの機能を果たしてくれない。



でも、知ってる。


これほどのハイ状態になる時のライブは、いつも最高だったから。



これは、私のすべての欲求を満たしてくれるくらいの中毒性があった。




だからいつも思うんだ。



これが出来る環境さえあれば、他になにも欲しくないと。

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