第34話

リハの時間がおして、もしかしたら無くなってしまうのではと心配したけど、何とか振り当ててもらった。



「ええッとですね、自分の声上げて欲しいんですけど・・・・」


「・・・・・」


「聞いてます?」



ああ・・・賢人。

聞いてるに決ってんじゃん。

ツマミ調整してるから。


札幌だったら業者の人がやるから会話もあったりするけど、今日の会場みたいに専属PAさんとかだったりすると、愛想がない人もいたりする。


でも返事しないのは聞こえてないからではなくて、それだけ集中しているからなんだよ。

それに返事のやり取りが時間のロスに繋がるから、そういうのを省くPAさんもいるんだ。


「あの・・・」


「賢人!」



こういう事を事前に教えなかった自分も悪い。


でも、いざなってみないと私も気がつかないよ。



何とか無事にリハを終わらせたものの、賢人のテンションがあがらない。


「かっこわり、おれ」


初めてこんな大きな箱でやってさ、カッコよくできるはずないじゃん。


「万全にしたって、完璧にならないから次に繋がるんじゃん」


「は?」


「だから、完璧が出来ちゃったら次やろうと思わないじゃん。そこで満足して終わりだよ。わたしらまだ高校生なんだよ?始まる前でつまづくの当たり前だって」


「んー…」


「だから、できることを精いっぱい背伸びして頑張るんだよ。今日は大きな一歩だと思うよ?」


「でもよー…なんか心配。リスクがあるステージに思えて」


「何言ってるの賢人。追い込まれるからいい物が生まれるんだよ。人はピンチの時にその能力を発揮させるんだって」


「なんか…、そういうのこえー気がすっけど…だよな、もうやるしかねーもんな」


「うん、頑張んなくてもいいから、楽しもうよ、ね?」


「――――おう!」



ボーカルの士気が上がれば他のパートもテンションがあがる。



私だって緊張で手が震えるけど、こんな時は亡き先輩に思いを馳せる。



また、一つ大きなものを得て、ステージに上がるよって



心の中で唱えるんだ。

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