次なるステージへの挑戦

第25話

季節は恋人たちの聖なる時期を着々と迎えていたけど、賢人はバンドに集中するようになった。


そのくらい、初である地方遠征に力を入れたいのだろう。


市街で行われるあのイベントの出演者には、道内や本州からもそうそうたるネームバンドが連なっていた。



規模は小さくとも、日本全国を回っていたり、海外へ進出した強者もいる。


セルフマネージメントでアメリカの数か所を自らブッキングして、出演交渉していた人たちもいるんだ。



その人たちの目に留まるライブがしたい。賢人だけではなく、皆がそう思っていた。



「賢人~、クリスマスさ―」


「ああ、今年なしにして。こっちに集中したいから」


「え、・・・・なし?嘘でしょ?」


――――やー…ちょっと…。

バンドに集中したいのは分かるけど、彼女に向かってそれはないんでない?


「・・・・・・・・・・・」

何も言えず沈黙する彼女。


「三波、これデモ作ってきたからよ、放課後までに聞いといて」


「う、うん」



なんか哀れだな…。


ここで彼女が怒ったら、得意の「めんどくせ」が出てくるから本音を言えないのかと、今さらながらに気がついた。



賢人、性格は難ありだけど、結構モテるからね。

歴代の彼女たちにだって、そういうのが原因で「ウザい、別れたい」って発言をしていたのを、何度か目撃したことある。



「ねえ、あれはないよ。彼女可哀そうじゃん」


「は?うっせーし。そんなの良いから早く曲聞いてドラムの振り当て考えろよ」



頭ごなしだ・・・。こうなって話がこじれたら嫌だから、もう干渉しないことにしよう。

でも、彼女さんには言いたい。「私だって少しはあなたの味方したよ?」って。


だから、これからも穏便にしてほしい。



まっさらな譜面ノートに、消しゴム付き鉛筆でサラサラと音符を並べていく。


最初はシンプルにして、皆と合わせた時にちょこちょこと書き足していくんだ。



頭で考えたことは、譜面におこす。忘れっぽいし、適当にもなりたくない。



「すっげぇな、何が何だか訳分かんねえんだけど」


曲が固まるにつれて複雑なリズムを表す音符たちが、窮屈そうに並べられていく。

その、ノートを見た悟が苦笑していた。


「あなたみたいに記憶力が良くないの」ついでに言えば、彼の適当さもない。

悟に関してはその適当さが絶妙で、センスの塊なのだけれど・・・・


それは悔しいから言わない。

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