第23話

「ありがとう♪」


「いい物を買って大事に扱う。その方が結果論で得をするんだよ」


「うん、覚えておく」


ここに連れてきたのは少なからずそういう下心があったからなんだけどさ、こんなに高い物買ってもらえるだなんて思っていなかったよ。



ルンルンで店を出ようとした時、悟が遠くの方から歩いてくるのが見えた。



「あ、さとる~!」


「お~!みな~」


タタタと駆け寄る私たち。


「なに、買い物?」


「うん、ハードケース買ってもらったの、凄いっしょ?」


「えー!まじかっけえんだけど?!高かったべ?」


「うん。でも、お兄ちゃんに買ってもらったんだ」


「へぇ~良かったなぁ」


そうやって悟は笑いかけ、私の頭を撫でようとしたけど、なぜがビクついて手を引っ込める。



「あ、お兄さんですか?初めまして、僕、東郷悟といいます。三波さんと同じ学校に通う同学年で、バンドメンバーの一人です」


「—————ミナの兄です、宜しく」



――――え、お兄ちゃん、声低い。目つきもなんだかさ、ちょっと怖いんだけど?


やー、ちょっと、悟きょどってるじゃん。



「あ、あのね!お兄ちゃんが今度の遠征ライブで車出してくれるって言ってくれたの!バスで行かなくてもいいんだよ」


なんとかお兄ちゃんの好感度を上げたくて、そんなことを口にしていた。


「あーまじですか?!嬉しいっす!あざーっす!」


「…あざーっす?」


「あ、すみません!———ありがとうございます…」


「——————どういたしまして」



あれ、逆効果だった?


いつまでも睨んでそうだから兄様の腕を引っ張って悟にバイバイした。


さっきまで優しかったのに、どうして急に怖くなるんだろ?



「悪い男に騙されないように、自分の身はちゃんと守れよ?」


「悪い男って、なに?悟の事?———あの人は戦友だし、そんな事にはならないよ」


「————とにかく、あのくらいの年頃は理性がきかなくて見境がないんだ。優しくしてくれるからって安心しないように」


「だから、悟に限ってそんなことないってば」


「そう思ってる時点で読みが甘いから」


「もう、信じてくれないんだから」


「男に交じってバンドやるってだけで心配なんだよ、俺は」



バンド内にはそんな雰囲気は全く無い。

部外者からの勘違いは多々あるけど、お兄ちゃんも同じように見てるんだ。


それが腹立たしくもあり、ショックでもあった。



だからさ、私にとってのバンド活動っていうのはね、愛だの恋だのとぜんぜーん関係のない孤高な位置にあるんだよ。



なんでわかってくれないんだろ?

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