第22話

ミヲ兄には大好きな網元のおじさんがいて、彼の元で船員として働くことを生業にしようとした過去がある。

でも、私が生まれてすぐ、その人は亡くなってしまったんだ。


そんなこともあって、勉強はちゃんとしておけと言われてきた。


兄様は漁師になるって決めてても、何が起こるか分からないから勉強はしておきなさいと言われながら育ったらしい。


だから、今の勤め先にも就職できたんだってよく話してくる。




土日だけ札幌で過ごす短い期間。どこ行きたいと言われ、お兄様を連れて行くのは行きつけの楽器店。


「いいな~~このスネアケース・・・」最近ジッパーが壊れたんだ。


だから太鼓が飛び出さないように慎重に運ぶんだけど、たまにゴロンと出てきてしまう。


「————この間の成績もよかったしな、買っちゃる」

「え!ありがとう!」



いそいそと3,900円のソフトケースを手にしていたら、眉をひそめられた。


あ、たかい?———ですよね。


一旦戻して1,500円のに持ち替える。


あれ、もっと険しい顔してる。



「そういうのを安物買いの銭失いって言うんだぞ」


そう言ったかと思えば丸が一つ多いハードケースを手に取っていた。


いやいやいやいや!超カッコいいけどさ!高校生には生意気すぎる!


と思うのに止められない私。



「一括で」


私はスマートにクレカでお買い物する後ろ姿を、ドキドキしながら見守ってました。

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