第13話

二人だけでスタジオに入る。


こんな密室で二人きりだなんて…。


学校の子に見られたらそんな事を言われそう。



でも、私と悟の仲ではそんなものは皆無だ。


「ゲ!真空管だ、ラッキー」

「出た、マニア。———あ!カノウ〇スにイスタン〇ールじゃん!何ここ!天国かよ!!」

「三波だって人の事言えねーし」


真空管のベーアンにスイッチを入れながらケラケラ笑う悟。


仕方ないじゃん。バスドラ、ワンタム、ワンフロアの3つだけで、ゆうにウン百万円を超えてしまう、ドラムメーカーきっての上等品なのだ。


しかもシンバルは、職人ハンドメイドのイスタン〇ール。


ドラマーたるもの、この組み合わせに興奮しない者はいない。



セッティングをする手が嬉しさでじわじわとしてくる。


早くその音色を聞きたくてしょうがない。



「三波はドラム狂だな。他に好きなことないの?」


「ある訳ないじゃん―――。例えば、何さ」



普通の女の子が興味を示すものって?


可愛い小物?化粧品?美味しいスィーツとか?


ああ、あとは


「好きな男とか、居ないの?」

「いない」

「アハハっ!即答だし」

「私の今彼はこのカノプス君かな?」

「花の女子高生が。もったいない」

「なんだよぉ、親父臭いな。じゃあ悟は?あんたもベース狂いじゃん、人の事言えるの?」

「いるよ」

「え・・・・ええええ!!?いるんだ!」

「普通にいるから。ちなみに現在片思い中」

「へぇ~、そうなんだ。ベースさえ弾ければ何も要らないように見えるけど」

「おれも健全な男ですから。ベース以外に興味あるの」

「えーなんか想像つかないなー。うん、でも大丈夫だよ、悟って結構モテるもん」

「え、マジで?」

「モテるっしょ、普通に。イケメンの部類じゃない?」

「———そう、三波だったら?どう見える?」

「どうって・・・」


なんだよ、その希望に満ちた目は?

訳分からん。


「普通かな。ベース好きな人なだけで、それ以外ない」


「あっそう」



あ、グレた。わたしにその手の意見を求めてどうする。


初恋もしたことない恋愛初心者だっていうのにさ。

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