第5話
「お風呂湧いてるから、入りなさいね」
「はぁ~い。この課題終わってから入るね」
お兄様はいつも私に厳しくて、成績が落ちようものなら飛行機でやって来ては説教される。
だから気が抜けないんだ。
「———あまり根詰めて風邪ひかないように。おばあちゃん、寝るわね?」
「うん、おやすみなさい」
「はいはい、おやすみね」
おばあちゃんは寝る前までニコニコで本当に愛らしい。
おじいちゃんが亡くなった時、だいぶ落ち込んでいたけど、ああやって笑ってくれるようになって本当に良かった。
やっと明日提出の課題も終わり、静かに部屋を出た。
おばあちゃんを起こさないために音をたてないようお風呂場へ急ぐ。
服を脱ぎ、おふろ戸を開き中に入れば自然と目に入る自分の顔。
「おばあちゃんにも・・・・似てないよね、私」
お風呂場の姿鏡を見ながら呟く。
自分がそういった事に自覚する前によくこの事で幼なじみたちにからかわれた。
兄姉たちは両親はもちろん、おばあちゃんのポワンとした雰囲気も似てたりするのに。
『お前だけ砂浜に落ちてたんじゃねーの?』
『ぎゃははは、あり得る!ミヲ君とかよく砂浜歩いてたしな!』
小さな頃はそんな同級生たちの心許ない言葉に傷つき泣いて帰ってた。
そのことにお父さんが凄く怒ってよく相手方の家まで行って、もめていたのを覚えている。
そんなことを繰り返していくと自然と疎遠になっていくし、私もイジメのことを隠すようになった。
それでも何かを感じ取っていた父は、私が浮かない顔で帰るとよく楽器を弾いてくれた。
「一歳のおまえが選んだのはドラムスティックだった」
その話をよくしてくれた。
その子の将来を占うって風習がお父さんの国であって、近所のお屋敷に住んでいたお爺ちゃんがやろうと言い出したんだとか。
目の前に置いたのは、ミヲの参考書、リヲの柔道帯、渚沙の絵筆、美湖のフランス人形、そしてギターのピックにベースのピック。
「これも入れてみたら?」
お母さんがそう言ってドラムスティックやマイクも追加したんだって。
ミヲが抱っこしたまま三回まわって、降ろされた私はよろよろと尻もちつきながらもドラムスティックを掴み、ブンブン振っては大きな声を上げて笑っていたらしい。
そんな話を聞けば”私の天性はこれしかない!”とばかりに勘違いしたまま育ってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます